間奏曲または幕間劇(インタールード)その2

文字数 1,575文字

 クロードとベンジャミン、荷造りしている。

ベンジャミン「御曹司」
クロード「うん?」
ベンジャミン「マンガ読まないで作業して」
クロード「悪い」

クロ「でも引っ越しあるあるだよね、つい出てきた本とか読みふけっちゃうの」
ベン「他人事みたいに言うな」

クロ「ちょっと聞いていい?」
ベン「何」
クロ「この『牛若丸ものがたり』とかってさ」
ベン「自分の伝記読んでたの? しかもマンガ?」

クロ「不思議なのは」
ベン「スルーかよ」
クロ「おれっていつから笛の名手だった?」

ベン「……」
クロ「……」
ベン「たしかに」

クロ「五条大橋でベンに初めて会ったときさ、おれ笛吹いてた?」
ベン「やー覚えてねーわ」
クロ「おれも」

クロ「おれのレジェンドむちゃくちゃたくさんあるじゃない」
ベン「うん」
クロ「笛吹いてる話多いんだわ」
ベン「あーたしかに」
クロ「勉強は鞍馬の寺で習ったし、剣術は鞍馬天狗さんに習ったけど、笛はいつ誰に習ったのかなーと思って」
ベン「たしかに」

クロ「そんな優雅な習い事させてもらえるような家庭環境じゃなかったよ? うちのおかんシングルマザーで、おれ置いて再婚しちゃったし」
ベン「うちのおかんてあんた、常磐(ときわ)御前でしょう。絶世の美女言われた」
クロ「けどほんまおかんやし」
ベン「なんできゅうに関西弁やねん」

クロ「これは、あれじゃないかと」
ベン「何」
クロ「おれ敦盛(あつもり)さんと混同されてる疑惑? 平家の」
ベン「あー!」
クロ「ね」
ベン「あるある」
クロ「キャラかぶってるでしょ」
ベン「はいはい」
クロ「なんかちっちゃくて可愛くて」
ベン「自分で言うな」

ベン「敦盛さんだな~」
クロ「敦盛さんだよ~」
ベン「青葉の笛ね」
クロ「決戦前夜に吹いてるなんて」
ベン「泣かせるよね」
クロ「なんで誰も止めなかったかな、『悪いちょっと寝かせて。明日早いから』つって」
ベン「おい」

クロ「だけどまじやばい」
ベン「何が」
クロ「『御伽草子』ってあるでしょ」
ベン「ああ、浦島太郎とかの」
クロ「あれにおれ出てくるの」
ベン「まじで?!」
クロ「ベンも出てるよ」
ベン「おれら浦島太郎といっしょか!!」

クロ「でね、おれらいろいろ冒険して、小人の島とか馬の島とか」
ベン「それガリバーさんの間違いじゃね?」
クロ「ううん。『御曹子島渡(しまわたり)』」
ベン「まじか」
クロ「うん。でね、鬼ヶ島に行ったときに」
ベン「それ桃太郎さんの間違いじゃね??」
クロ「ううん。おれ」

クロ「鬼が寝てるあいだにおれが鬼の宝物盗んで、怒った鬼に追いかけられて」
ベン「あんたが鬼畜だわ。てか、それも『ジャックと豆の木』の間違いじゃね?」
クロ「『やばいやばい』つって笛吹いたら、鬼がうっとりして許してくれるらしいよ」
ベン「それはオルフェウスさんだよ! じゃねーわ、オルフェウスさんは竪琴だわ。笛でうっとりはモーツァルトさんの『魔笛』のタミーノ王子だわ」
クロ「ベンすごい詳しい(尊敬)」

クロ「笛で鬼がうっとりっておれどんだけ名人なの。てか、どんだけ世界のメルヘン渡り歩いてるの。われながら神出鬼没すぎ」
ベン「やっぱりもうモンゴル行ってジンギスカンになるしかないじゃん(笑)」
クロ「きついなー」
ベン「何が」
クロ「だってモンゴル料理って羊づくしでしょ? 羊ミルクで羊肉煮たシチューに、飲みもの羊ミルクのヨーグルト酒」
ベン「まじか」
クロ「日本人がモンゴル人になりすますの無理だと思う。おれたまにはお茶漬けとか卵かけご飯食べないと死ぬ」
ベン「そだねー」
クロ「いちごとか」
ベン「もぐもぐタイムな」

ベン「だけどいまさら言えないんだ? 本当は笛吹けないって」
クロ「うん」
ベン「それでこのチラシ取ってあったんだ。ユーキャンの『はじめよう! 横笛入門講座』※」
クロ「うん」
ベン「いいから荷造りして」

クロ「サンバホイッスルなら吹けるよ」
ベン「いいから」


※現在、ユーキャンでそのような講座は開講されておりません。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。アリアに片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生で恋人。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。じつは料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。ミランダに片思い中。火狐(ファイアーフォックス)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは熊野での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが、詳細不明の経緯によって刺客となり、謎のダイイング・メッセージを残して世を去る。土霊族(ノーム)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)


クロードとベンジャミンのかつての同級生。いまは転校してカミーユの高校にいる。清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)

カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

滋子/ジェニファー(しげこ/じぇにふぁー)

後白河院の女御。院号は建春門院。かの平清盛の義妹(妻の妹)。美貌と知性と気くばりを兼ね備えたパーフェクトなレディ。溺愛してくる夫を甘やかしつつ、さりげなく手綱をとっている。樹霊族(ドリュアード)。

横川覚範/セバスチャン(よかわかくはん/せばすちゃん)


比叡山延暦寺(天台宗)の荒法師。四郎忠信とは宿命のライバル(に今後なるはず)。山霊族(オレアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)


醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取る。謎の使命を帯びてアリアに近づく。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

金王丸/マルティノ(こんのうまる/まるてぃの)


土佐坊ジョバンニの弟。推定年齢十歳前後(ヒューマノイド換算)。聡明で献身的。思いがけない形で佐藤兄弟の前にあらわれ、ある重大な秘密を告げる。土霊族(ノーム)。化体はカナヘビ=草蜥蜴(グラスリザード)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


一人当千の女武者。ミランダの盟友となる。素はおちゃめで尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだった。土霊族(ノーム)。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み