トリビア:後白河くんと頼朝くんと義経くんの三角関係について

文字数 1,477文字

 ディープな、つまり誰が攻めで誰が受けかという話ではないので、安心して(あるいは落ちついて)読んでください。

 頼朝と義経の兄弟仲がこじれはじめたのは、義経がダイレクトに後白河から官位を受けてしまったのがきっかけだ、というのが定説になっている。
 間違いではないが――、そう単純な話でもないらしい、ということが、いろいろ読んでわかってきた。

 たしかに頼朝は事前に、「武士たちの褒賞は、先にわたしの推薦があってからにしてください」と朝廷に念を押している。
 ただ、義仲の代わりに都入りした義経に期待されたのは、都の警護だった。あたりまえだ、武士だから。それで検非違使(けびいし)という位をさずかる。当然だ、役職のない者に仕事をまかせるわけにはいかない。

 この報告を受けた頼朝が「顔色を変え」、つまり怒り、
 義経を平家追討軍から(いったん)外してしまった、
 という事件。
 これ、もしかして、頼朝が「なぜ」「どのように」怒ったかによって、ずいぶん話が違ってくる気がする。

 嫉妬とかではないんじゃないだろうか。
 そういう説を読んで、すごく納得している作者だ。
 頼朝はちょっと、きちんとしすぎなところがある。完璧主義というか。そういう人いませんか。上司で、部内のことをつねにきちんと把握しておきたい人とか。
 部下がいつのまにか他所で別の仕事をしていた、なんて話を聞いたら、まちがいなくイラッとするタイプだ。

 しかも、京都警護と平家追討は、仕事として両立しない。
 オフィスに詰めながら出張しろ、みたいな話だ。
 頼朝としてはあせって、つまり「顔色を変えて」、検非違使に任命されちゃったらそっち優先しなきゃということで、いそいで義経を追討使から外した。朝廷ファーストの姿勢を示した。
 という説、すごく納得できる。
 懲罰人事じゃないのだ。

 一方、後白河院と義経はどうも、きちんとしてなくても大丈夫な人たちの匂いがする。
「じゃあ警護の件よろしくね!」的な感じで、話が早い。鎌倉へは事後承諾でOKでしょうというね。検非違使と追討使もべつに兼任でノープロブレムでしょう、臨機応変にやればというね。
 それが頼朝みたい人にはすごいストレスなんだということがわかってなかったんじゃないのだろうか。
 ああ、なんか、あるある。皆さんのご家庭でもありませんか?
「はさみ使ったらもとのところへ戻してっていつも言ってるでしょう!」
「またすぐ使うからいいじゃない!」
「靴下ソファーで脱ぎっぱなしにしないで!」
「いま脱いだとこだから。すぐ片づけるから。やる前に言わないで!」

 悲劇だ。

 喜劇かもしれないが。

 けっきょく義経が出陣しないとらちがあかないということになり、彼は平家追討に向かう。そのぎりぎりのところへ後白河院は使いを送って「やっぱり不安だから行かないで(泣)」と引きとめているんだそうだ。
 赤ちゃんか?
 いや、それくらい義仲くん大あばれのナイトメアから立ち直れていなかったんだろう。わかる。
 義経だって困ったはずだ。もしかして、彼があんなに超スピードの猛攻をかけて一気に平家を滅ぼしたのは、お父さんくらい歳の違うまーくんに泣きつかれて「わかったから、すぐ帰ってくるから待っててね」とか約束しちゃったせいじゃないんだろうか? これは作者オリジナルの仮説ですけど。

 頼朝の計画ではじっくり攻めるつもりだったらしい。「えっもう終わったの?」と驚いたに違いない。そういう想定外も、喜ぶよりストレスになりかねないタイプだ。
 どうしてあの人は、ああなんだろう、
 という三者三様の声が聞こえるような気が、作者にはする。
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。アリアに片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生で恋人。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。じつは料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。ミランダに片思い中。火狐(ファイアーフォックス)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは熊野での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが、詳細不明の経緯によって刺客となり、謎のダイイング・メッセージを残して世を去る。土霊族(ノーム)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)


クロードとベンジャミンのかつての同級生。いまは転校してカミーユの高校にいる。清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)

カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

滋子/ジェニファー(しげこ/じぇにふぁー)

後白河院の女御。院号は建春門院。かの平清盛の義妹(妻の妹)。美貌と知性と気くばりを兼ね備えたパーフェクトなレディ。溺愛してくる夫を甘やかしつつ、さりげなく手綱をとっている。樹霊族(ドリュアード)。

横川覚範/セバスチャン(よかわかくはん/せばすちゃん)


比叡山延暦寺(天台宗)の荒法師。四郎忠信とは宿命のライバル(に今後なるはず)。山霊族(オレアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)


醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取る。謎の使命を帯びてアリアに近づく。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

金王丸/マルティノ(こんのうまる/まるてぃの)


土佐坊ジョバンニの弟。推定年齢十歳前後(ヒューマノイド換算)。聡明で献身的。思いがけない形で佐藤兄弟の前にあらわれ、ある重大な秘密を告げる。土霊族(ノーム)。化体はカナヘビ=草蜥蜴(グラスリザード)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


一人当千の女武者。ミランダの盟友となる。素はおちゃめで尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだった。土霊族(ノーム)。

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