あなたの庭では遊ばない (5)
文字数 1,283文字
当時の宮廷人の日記に「この世にこんな綺麗な人がいるのか」と絶賛されたほどの美貌の持ち主で、その上若いときからしっかり者で気くばりのできる、素敵な女性だったらしい。
この滋子妃を後白河院が溺愛したという話を読んだのが、作者ががぜんゴッシーの大ファンになったきっかけだ。
ご寵愛などという生半可なものではない。まさに溺愛。もう甘々のラブラブなんである。それまでに藤原家からお妃を二人もらっているのに完全に放置。
だいたい
二十一世紀のいまでさえ京都駅から特急「くろしお」を乗り継いで五時間、そこから直通バスで二時間。
それもただの五時間や二時間ではない。作者はちょこっとだけ熊野のお山を歩いたことがあるんだけど、それはそれは清々しくかつ険しい道で、ふだん運動不足だから最後は酸欠で頭がもうろうとした。お恥ずかしい。
後白河院もいちおう、大変だなあと思ってはいたらしく、
「熊野にお空から行けたらな。翼をください」※
なんていう
それじゃスポーツジムに自家用セスナで乗りつけるようなものなんじゃないのか、ゴッシー。
とにかく、そんな大変な熊野に彼は、愛する滋子ちゃんを連れてっちゃったりしてるんである。
ふつう、ない。
ついていく滋子ちゃんも偉すぎる。
滋子ちゃんラブのあまり、彼女の義兄、宿命のライバル清盛とうっかり関係修復しちゃったりもしている。清盛くんが厳島神社をリノベして記念に招待したら、大喜びで滋子ちゃんと遊びに行っている。これも、ふつう、ない。貴族たちは「ばかなの?」とドン引きしていたらしい。
きわめつけが、自分の誕生日祝いに、滋子ちゃんとの有馬温泉旅行だ。
有馬温泉ですよ。
面白すぎる。
その滋子ちゃんとのラブラブ自撮りツーショット@有馬温泉をこれでもかというほどスマホで見せられて、いいかげんうんざりしているバルタザールだ。
「坊主のおれにのろけるか? ふつうないぞ」
「あはは、アポなし突撃の罰だ」
いちおう断っておくと、じつは建春門院滋子は悲しいことに早く亡くなっている。彼女の橋渡しを失ったことで後白河院と平家の関係は一気に悪化して、壇ノ浦の悲劇へとなだれこんでいったわけだ。だけど、作者はあまりに滋子ちゃんと雅仁くんの純愛に感動してしまったので、三郎嗣信と同じく生き返ってもらうことにした。まことに勝手な話で申し訳ない。
※
熊野へ参らむと思へども
馬にて参れば苦行ならず
空より参らむ
(『梁塵秘抄』第二五八番。「若王子」は熊野権現の一つ)