あなたの庭では遊ばない (5)

文字数 1,283文字

 女御、(たいらの)滋子(しげこ)は、あの清盛の義理の妹。院号を建春門院という。
 当時の宮廷人の日記に「この世にこんな綺麗な人がいるのか」と絶賛されたほどの美貌の持ち主で、その上若いときからしっかり者で気くばりのできる、素敵な女性だったらしい。

 この滋子妃を後白河院が溺愛したという話を読んだのが、作者ががぜんゴッシーの大ファンになったきっかけだ。
 ご寵愛などという生半可なものではない。まさに溺愛。もう甘々のラブラブなんである。それまでに藤原家からお妃を二人もらっているのに完全に放置。
 だいたい(ゴッシー)は何につけ熱狂するタイプなのだ。今様を歌いすぎてのどを三度もつぶしたり(自分でそうテヘペロ書いちゃってるところが可愛い)、熊野(もうで)がマイブームになったら天皇なのに年二回のペースで通っちゃったり(生涯で三十四回熊野参詣した天皇なんて他にいない)。さすがに文覚と違って那智の滝に打たれてはいないけど、熊野までは行くだけでものすごい修験道なのだ。当時は往復一か月かかったという。
 二十一世紀のいまでさえ京都駅から特急「くろしお」を乗り継いで五時間、そこから直通バスで二時間。
 それもただの五時間や二時間ではない。作者はちょこっとだけ熊野のお山を歩いたことがあるんだけど、それはそれは清々しくかつ険しい道で、ふだん運動不足だから最後は酸欠で頭がもうろうとした。お恥ずかしい。

 後白河院もいちおう、大変だなあと思ってはいたらしく、
「熊野にお空から行けたらな。翼をください」※
なんていう今様(ポエム)を自分で作っているそうだ。
 それじゃスポーツジムに自家用セスナで乗りつけるようなものなんじゃないのか、ゴッシー。

 とにかく、そんな大変な熊野に彼は、愛する滋子ちゃんを連れてっちゃったりしてるんである。
 ふつう、ない。
 ついていく滋子ちゃんも偉すぎる。
 滋子ちゃんラブのあまり、彼女の義兄、宿命のライバル清盛とうっかり関係修復しちゃったりもしている。清盛くんが厳島神社をリノベして記念に招待したら、大喜びで滋子ちゃんと遊びに行っている。これも、ふつう、ない。貴族たちは「ばかなの?」とドン引きしていたらしい。
 きわめつけが、自分の誕生日祝いに、滋子ちゃんとの有馬温泉旅行だ。
 有馬温泉ですよ。
 面白すぎる。

 その滋子ちゃんとのラブラブ自撮りツーショット@有馬温泉をこれでもかというほどスマホで見せられて、いいかげんうんざりしているバルタザールだ。
「坊主のおれにのろけるか? ふつうないぞ」
「あはは、アポなし突撃の罰だ」

 いちおう断っておくと、じつは建春門院滋子は悲しいことに早く亡くなっている。彼女の橋渡しを失ったことで後白河院と平家の関係は一気に悪化して、壇ノ浦の悲劇へとなだれこんでいったわけだ。だけど、作者はあまりに滋子ちゃんと雅仁くんの純愛に感動してしまったので、三郎嗣信と同じく生き返ってもらうことにした。まことに勝手な話で申し訳ない。



熊野へ参らむと思へども
徒歩(かち)より参れば道遠し すぐれて山きびし
馬にて参れば苦行ならず
空より参らむ (はね)()べ (にゃく)王子
(『梁塵秘抄』第二五八番。「若王子」は熊野権現の一つ)
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。アリアに片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生で恋人。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。じつは料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。ミランダに片思い中。火狐(ファイアーフォックス)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは熊野での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが、詳細不明の経緯によって刺客となり、謎のダイイング・メッセージを残して世を去る。土霊族(ノーム)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)


クロードとベンジャミンのかつての同級生。いまは転校してカミーユの高校にいる。清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)

カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

滋子/ジェニファー(しげこ/じぇにふぁー)

後白河院の女御。院号は建春門院。かの平清盛の義妹(妻の妹)。美貌と知性と気くばりを兼ね備えたパーフェクトなレディ。溺愛してくる夫を甘やかしつつ、さりげなく手綱をとっている。樹霊族(ドリュアード)。

横川覚範/セバスチャン(よかわかくはん/せばすちゃん)


比叡山延暦寺(天台宗)の荒法師。四郎忠信とは宿命のライバル(に今後なるはず)。山霊族(オレアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)


醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取る。謎の使命を帯びてアリアに近づく。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

金王丸/マルティノ(こんのうまる/まるてぃの)


土佐坊ジョバンニの弟。推定年齢十歳前後(ヒューマノイド換算)。聡明で献身的。思いがけない形で佐藤兄弟の前にあらわれ、ある重大な秘密を告げる。土霊族(ノーム)。化体はカナヘビ=草蜥蜴(グラスリザード)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


一人当千の女武者。ミランダの盟友となる。素はおちゃめで尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだった。土霊族(ノーム)。

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