見つめていたい (11)
文字数 1,421文字
全員が声を失っていた。
外部からの侵入ではない。侵入できるはずがない。鉄壁だ。
だが、直接内部に。
確認しておくとこの球の中にじっさいにアリアたちがいるわけではない。これはあくまでゲートだ。誰かがあの桜の次元の存在に気づき、別のゲートを独自に設置して侵入したことになる。情報が漏れたのだ。どこから?
(まさかバルタザールが? 捕らえられて口を割ったとか……?)
一瞬でも友を疑った自分をローレンスは恥じた。あの男は寒風吹きすさぶ中、滝に打たれつづけるという荒行をやりとげた剛の者だ。たとえ拷問され、絶命しても、秘密は守りとおすに違いない。
クロードと目が合う。
(ここにいれば安全だって仰ったじゃないですか)
無言だがすさまじい非難の視線に、ローレンスは度を失う。
「待ってくれ。わたしも調べ――」
「もういいです」
クロードと同時に言って立ち上がったのは、ミランダだった。
今度は二人のあいだで火花が散る。
「御曹司」とベンジャミン。
「ミラ」とフロリアン。二人もまた、同時に腰を浮かす。
だが、一瞬遅かった。
炸裂する光と、砕け散る音の中で、この時を恐れていたのだとベンジャミンは悟る。
御曹司とミランダさんはけっきょく相容れない。二人ともアリアさんを相手から奪い返すためならどんなことでもしようと思っている。
(おれは)
今後のことを考えたら、アリアさんはミランダさんと故郷に帰ったほうがいいに決まっている。そうわかっていて、言いだせなかった自分をベンジャミンは責めた。
(御曹司とアリアさんを引き離すのがかわいそうで。おれの決断が遅れた。おれのせいだ)
言わせてもらうとベンジャミン、あんたは悪くない。ぜんぜん悪くない。責任は99.99%まわりのやつらにある。その内訳は作者にもいまちょっとわかんないけど。あとで割りふってみます。
ということをわれらがベンジャミンは一瞬考えてしまったので、行動が遅れた。
考える者は、考える前に飛ぶ者より、どうしても遅れる。
炸裂した光と音は、
水晶が本格的に崩落しはじめる。皆既日食のような光の円環を残し、大粒の
「すみません。このお礼とお詫びはいつか必ず」
法皇夫妻に一礼すると、ベンジャミンは、まだわずかに輪郭を保っている宝玉の中へ駆け入っていった。降りそそいでくる氷柱のような破片を打ち払いながら。
その破片の、最後の一片が落ち、あとには盆一杯のさざれ水晶だけが残された。
「どうしよう……」
胸もつぶれんばかりの悲嘆にくれているローレンスの頭を、ジェニファーはそっと抱きしめる。
「大丈夫」
「でも」
「あの子たちは大丈夫。しっかりしているわ。信じましょう」
「だけど」
「わたしたちは、わたしたちにできることを考えましょう。ね。藤原さんにはわたしからお礼を言っておくわ。今回のことは、もう少し先が見えてから報告しましょう。よけいなご心配をおかけしてもしかたないし。
それより、
泣かないの。いい子だから。よしよし」
うーむ。一家に一台ジェニファーかも知れん。
彼女、夫の気まぐれが引き起こした大惨事のあとしまつをさせられるのには、慣れてるんである。