私を月に連れてって (3)
文字数 1,482文字
波多野姉妹が続けて襲われた経緯を聞いて、畠山ロバートは目をつむり、辛そうにしばらく黙りこんだ。優しい男なのだ。
やがて、考え考え話しだす。
「アリアさんをさらったのは
いずれにせよ、鎌倉殿とは関係ないです。あのかたのやり口ではないし、そもそもさらう理由がない」
最後はきっぱり言い切った。
「おまえにそう言ってもらえると救われる」
クロードはうつむいたままだ。
「残るは土佐坊くんですが、単独犯ではなさそうですね。しかも泣いていたというのが気になる。何か事情がありそうだ。
『やま』は、ぼくも
「たしかに」とベンジャミン。
ありがとうロバート。きみのおかげで作者もだいぶ頭が整理できてきた。
「土佐くんはどっちの出だった、武蔵くん? 南か北か」
「おれは鞍馬山で会ったんだけど……、もともとはたしか南」
「武蔵くんは」
「北です」
天皇家を中心にすえた摂関藤原家の熾烈な派閥争いに加えて、じつは当時このお寺さんたちがものすごく怖かったんである。何かというと〈
イメージとして弁慶の大群。
ね、怖いでしょう。
めっちゃ怖い。
「問題は」とロバート。「なぜアリアさんとミランダさんの争奪戦が起こっているかということです。寺が動いているとしたら、なぐさみものに――すみません、嫌な言いかたして――その、もてあそぶ意図ではないんじゃないですか」
「それも、そう言ってもらえると安心する」
「いや、まだ安心とかは」
「とにかく」クロード、自分で自分の声をはげましつつ言う。「ねらわれてるのはおれじゃないとわかったんだから、おれが助けに動いてもいいよね」
「またそういうことを」ベンジャミンがたしなめる。「だからどう動くかが問題だって言ってるでしょう。ほんとせっかちなんだから」
笑ってふり返ったら、ロバートはきゅうに顔をゆがめ、苦しそうにそむけた。
何だ。いまの表情は。
「今日は」とぎれとぎれに言いだすロバートだ。「今日は……、帰ります。また日を改めて」
「えっ何」さすがのクロードも驚く。「何しに来たの?」
「いや、あの、ご様子を見に」
「ただ様子見にあの激烈な坂道ママチャリ飛ばしてきたの?」
「その……、先に武蔵くんと相談を、しようと思ったら、こちらにもう九郎殿が」
「何の相談?」
ロバート、額に汗を浮かべてうつむいている。
嘘の下手な男なのだ。
「悪い知らせ?」クロードの心拍数も上がり始めた。「姉上から――鎌倉殿から」
「帰ります」立ちあがるロバート。「失礼しました」
「何だそれは! 気になるだろう」
「お放しください」
「言えば放す!」
「こんな状態の九郎殿に言えません!」
クロードの手が離れる。
部屋の中に風が立つ。
「言ってくれ。いいから。いや――
言うな。
たぶんわかる。
いまは聞きたくない。いまは。言わないでくれ、頼む。
だけど」
ロバートはすでに涙ぐんでいる。
「言ってくれ。言え。
畠山」