あなたの庭では遊ばない (7)
文字数 1,088文字
屹立する岩の柱また柱に霞の、さっきからしつこく言ってるけど
かすみ
のたなびく、「こういう場所で生きていると、駆け引きばかりが上手くなっていく」
バルタザールをふり返って、ローレンスは哀しげに微笑む。
「きみがうらやましい。義経くんもね。
わたしもきみたちのようにまっすぐ生きてみたい。
友だちになりたかったけど……、残念だ。まあ、わたしとはかかわらないほうが、きみたちの幸せのためだね。
何かわかったらこちらから連絡するから」
バルタザールには、返す言葉もない。
ふと、ローレンスのスマートフォンが鳴った。
ローレンスがすばやく耳に当てる前に、甘やかな女性の声が漏れたのを、バルタザールはしかと聞いてしまった。
「もしもし、
「
ローレンス、ぽっと頬を染めたりなんかしている。
(やってらんねーわ)
心底うんざりしそうになるバルタザールだ。
「ごめんしーちゃん。友だちと大事な話が。ほんとごめんね。ううん、もちろんしーちゃんのほうが大事だよ。あ、そうか。今日いっしょに三時のおやつ食べる約束だったね。うん。うん。え、ティラミス? えー、わたしはサヴァランがいいなあ。わかった、じゃあちょっと訊いておく。うん。え? あ……うん。わたしも愛してる。じゃね。後でね」
床に倒れて耳をふさごうかと思ったバルタザールだったが、ふさぐ寸前に思いとどまった。
思いとどまって正解だったのだ。ローレンスの声がまだ続いている。
「え、何? ちょっと待って、いまメモするから」
(何だ? さっきもう切ったじゃないか)
「わかった、ティラミスとサヴァランね。ごめんごめん。あはは」
左手ですでに通じていないスマホを押さえ、右手でさらさらと書き流したメモをさりげなく渡してくる。
(おれに買って来いってか?)
目を落としてバルタザール、固まった。メモにはこう書いてあったのだ。
〈二人は無事だ。少なくともいまは。
義経くんには絶対に動くなと伝えてくれたまえ。
次の手を思いついたら知らせる〉
ごていねいに人魚ときつねの絵を描いて、ハートマークまで添えてある。
(やっぱりおまえだったんじゃないか。何が「わたしとかかわらないほうがきみたちのため」だ――!)
絶句するバルタザールに、ローレンスは平然と、目と口の動きだけでささやいてみせた。
(誰が聞いているかわからないからね)