見つめていたい (5)

文字数 1,431文字

「頼朝はあまたの朝敵を倒し、まつりごとをお上に任せたてまつるよう、努めてまいりました」
(ああだめ、声がふるえそう。がんばれわたし)
 カミーユが緊張するのも無理はない。他の全員が忘れても、彼女自身が忘れていないのだ。賢いから。

 つい最近まで、自分のほうが朝敵だったことを。

 そう、最初は、

だったのだ。ちゃんと朝廷のお墨付きの。
 それがいつのまにか逆転していた。
 勝てば官軍とはよく言ったものだ。
 平家の敗因。それは。決して平和ボケなんかではない。まして仏罰なんかではない。ぶっちゃけ、もんのすごい数の寝返りが出たからなんである。
 ようするに日本全国が日和(ひよ)ってたわけだ。互いにびびりまくって空気読みあってたとも言える。そして誰かが「おれ鎌倉殿に付く」と言いだして「おれも」「おれも」となる。いったんそういう流れになるともう止められない。極めつけが朝廷の手のひら返しだ。頼朝に平家追討令を出しちゃった。
 知盛くんも教経くんも死ぬほど悔しかっただろうと思う。死んじゃったけど。

 余談だが、
 作者の友だちのJKちゃんにコアな『進撃の巨人』ファンがいて、「こないだまでみんな熱狂してたのにもう忘れて『鬼滅の刃』とか『呪術廻戦』とかに走ってるの許せない」と言って怒っている。
 平家の人たちもきっと同じ気持ちだっただろうと思う。

 さらに余談だが、
 私(作者)なんて『進撃の巨人』はどうやら野球漫画ではなく、大リーグボールも出てこないらしかったとやっと理解したところだ。
 源平の世に生まれていたら、まちがいなく馬に踏まれて死んでいただろうと思う。

 話をもとに戻す。
「頼朝の三箇条」三項目目の「平家サイドにいたメンツでも降伏してきたら罪に問わない」というのも、べつにエンジェルではない。もっと切実な話だ。もともとそういう全国日和見(ひよりみ)フェス状態で、平家にかかわりのなかった人間を探すほうが難しい。それに同士討ちのしすぎでファミリーメンバーが少ない源氏は、万年人材大募集中(オールウェイズ・マンパワー・ウェルカム)なのだ(むちゃくちゃな英語だが気にしないでほしい)。使える者は使うという徹底した合理精神だと考えたほうが正しいだろう。
 頼朝の腹心の部下である梶原景時も畠山重忠も、なんと挙兵当時は平家軍にいた人たちだったんですね。というか系図見たらふつうに平氏だった(坂東平氏)。びっくり。

 ということで、

「頼朝の願いは、宇宙の静謐(せいひつ)です」
 宇宙の静謐ってまじで?!なにその瑠璃色の地球的な?と思うけど本当にそう言った(書いた)らしい。
「武士たちの乱暴狼藉を、責任を持って止めさせます」
 ウェーイって調子こいて農民から兵糧米を巻き上げたりさせないということだ。意外だけど本当にそう言った(書いた)らしい。
「平和な世の中を作ります。お約束します。そのことについて」
 カミーユはすっくと立ちあがった。深々と頭を下げる。
(あっ)

(いま見えた、谷間……?)
(白のスポーツブラ??)
 いいから話を聞け。おっさんたちよ。

「皆さまにお詫びしなければならないことがあります。
 愚弟が……、愚弟がご迷惑をおかけしまして、本当に! 本当に申し訳ございませんっ」
 声涙、ともに下る。血を吐かんばかりの声だ。
「あやつを野放しにしておいては、皆さまのご不安のもとです。ですので、パトロールの者をこちらから少しばかり、ほんの数人、全国に配置させていただきたく存じます。
 皆さまをお守り申し上げるという意味をこめて、彼らを〈守護(ガーディアン)〉と名づけました」
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。アリアに片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生で恋人。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。じつは料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。ミランダに片思い中。火狐(ファイアーフォックス)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは熊野での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが、詳細不明の経緯によって刺客となり、謎のダイイング・メッセージを残して世を去る。土霊族(ノーム)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)


クロードとベンジャミンのかつての同級生。いまは転校してカミーユの高校にいる。清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)

カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

滋子/ジェニファー(しげこ/じぇにふぁー)

後白河院の女御。院号は建春門院。かの平清盛の義妹(妻の妹)。美貌と知性と気くばりを兼ね備えたパーフェクトなレディ。溺愛してくる夫を甘やかしつつ、さりげなく手綱をとっている。樹霊族(ドリュアード)。

横川覚範/セバスチャン(よかわかくはん/せばすちゃん)


比叡山延暦寺(天台宗)の荒法師。四郎忠信とは宿命のライバル(に今後なるはず)。山霊族(オレアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)


醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取る。謎の使命を帯びてアリアに近づく。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

金王丸/マルティノ(こんのうまる/まるてぃの)


土佐坊ジョバンニの弟。推定年齢十歳前後(ヒューマノイド換算)。聡明で献身的。思いがけない形で佐藤兄弟の前にあらわれ、ある重大な秘密を告げる。土霊族(ノーム)。化体はカナヘビ=草蜥蜴(グラスリザード)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


一人当千の女武者。ミランダの盟友となる。素はおちゃめで尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだった。土霊族(ノーム)。

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