うちへおいでよ (3)
文字数 705文字
うなじに息がかかる距離でささやかれ、アリアは悲鳴を上げてふりかえった。
いつのまにか真後ろに男がいる。僧形だ。墨染の袈裟、頭を白布で包んでいる。しかも、
(やだ、いい男)
そばへ寄ったら切れそうな、ちょっと凄みのある美貌。
しかし、
「いや、いやいやいや! いい男このさい関係ない。顔も声も!!」
「どうなさいました」
まばたきもせず、涼しげに言う。明らかにいい男と言われ慣れている。
なんかこの感じ覚えがあるんですけどと思いつつ、アリアは身をよじって彼から離れようとする。
「どうなさいましたじゃないでしょ。あなた誰」
「ははは、名乗るほどの者では」
「いや名乗りなさいよ! 名乗ってよ。怖いから」
「恥ずかしがらなくてもよいのですよ、姫」
さりげなく手をきゅっと握られ、アリアはかるくぶち切れた。
「だから何なん?! 『危ないところでしたね』ってあんたが危ないよ!!」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないし! ぜんぜん褒めてないし。あなたなの、こんなことしたのは?」ぐったりした白狐を半泣きで抱きかかえる。「佐藤くんに何をしたの?」
「『さとうくん』? ペットのネーミングとしては個性的だなあ」
「ペットじゃない!! この人は、あたしの」言いかけて、きゅうに言葉につまる。「あたしの……」
あたしの、何だろう。佐藤くんて、あたしの、何?
男はりりしい眉をちょっとあげて、慈愛深そうにアリアのつぎの言葉を待っている。
「あたしの、大切な」
いきなり、天に向かってからからと男は笑い、アリアをあぜんとさせた。
「はははは、面白いことをおっしゃる」
「いや面白くないし。その笑いのツボぜんぜんわかんない!!」