カメラを止めるな(荒法師トーク)

文字数 1,810文字

 カメラチェックの間、横川覚範セバスチャンと阿野全成アントワーヌが談笑している。

覚範「やっぱイケメンは得だよなー(嘆)。おれなんか『義経記』レギュラーなのに、けっきょく四郎忠信に斬られるってそれだけの役よ? 苦節十年とか言うけどおれ苦節五百年とかよ? いまだに大部屋」
全成「役もらえるだけいいじゃない」
覚「なのに何なのセンパイは、たまたま歩いてたところをスカウトされて抜擢って、ジュノンボーイですか」
全「たまたま歩いてないよ。撮影現場見に来てた」
覚「あーね。ほらね。怪しいと思ったんだ」
全「何が」

覚「前回の楽屋トーク(オカンとボクと、時々、オトン(と鞍馬天狗))でさ、きゅうに気合い入った注がついたじゃない。『牛若のお兄ちゃんたち』とかって」
全「あれね(微笑)」
覚「ずるいよ」
全「いやおれぜんぜん出演予定なかったのよ。ほんとに。あのね、九郎が末っ子でおれたち九人兄弟じゃない。九人よ。あとの七人どこ行ったのって話。影うすくてもう」
覚「あー(同情)」
全「いちばん気の毒なのは範頼(のりより)兄ね。平家追討軍ってじつは範頼兄と九郎の連合軍なのに忘れられがちで。この小説でも完全にスルーされてるし」
覚「あー(同情)」

覚「いや範頼さんの話じゃなくて先輩の話」

全「まあ、本当のこと言うとね(照れ)。大河ドラマ」
覚「あ、『鎌倉殿の13人』! 出てるよね。やっぱ万年斬られ役のおれとは格が違うんだわ、同じ荒法師でも(嘆)」
全「いやまあ、出てるけど」

全「何て言うか」

覚「あーうん! うん、言わなくていい。わかる」
全「あのね。おれめったに光当たらなくて、大河も四十年ぶりとかだし、出してもらって文句言ったら申し訳な……」
覚「いやそんな卑屈になんなくていいから」

覚「おれが代わりに言うわ。イメージ違すぎ」
全「ありがと」

覚「だって先輩ったらこうでしょ?」


(Wikipediaより)

覚「凛々しいっ!!」
全(照れ)
覚「やっぱこうでしょ。白頭巾、黒衣に鎧の三点セット!」
全(ひたすら照れ)
覚「ほんと言うとおれ『呪術廻戦』の夏油(げとう)(すぐる)のビジュアル見たとき、あ、顔に傷ないバージョンね。何これガチで全成センパイじゃね?と」
全「褒めすぎ(照れ)」

覚「

だからね! 暴れん坊だからね」
全「暴れん坊ってほどでは(笑)」
覚「だけど今回の大河だとなんかこう、占いじゃらじゃら専門? みたいな?」
全「うん」
覚「完っ全に、陰陽師と間違われてるよね。おれら」
全「うん(ため息)」

全「まあでも、文覚先輩のあつかいに比べれば」
覚「あれはひどいね!! キモオタ?」
覚「そうだ文覚先輩と全成先輩の二人で、呪殺バトルするシーンあったけど?」
全(苦笑して首を振る)
覚「だよね」
全「ないない」
覚「だよね」

覚「ようするに笑かし役なのな。おれら仏弟子(嘆)」

全「ひさしぶりに大河出るって聞いたときにね」
覚「うんうん」
全「でもどんな役かなと思うじゃない。心配だからいろいろググったら、ほんっとおれの資料ってなくて。九郎のレジェンド東京ドーム1杯分とすると、おれ洗面器1杯くらい?」
覚「あー……(否定してあげられなくてごめん)」
全「1こだけ短編があってさ」
覚「まじ?」
全「永井路子先生の『悪禅師』」
覚「まんまやな。読んだの?」
全「うん」
覚「どうだった?」(わくわく)
全「よくわかんなかった」
覚「へ?」
全「最初から最後まで、おれ、じわーっとそこにいるだけで」
覚「じわーっと?」
全「そう。じわーっと。で最後、鎌倉からの刺客に斬られるの」
覚「えー……」

全「永井先生これで直木賞取ったっていうからすごくどきどきして読んだんだけど、なんかね。複雑な気持ちになった。あーやっぱおれってそういう……、っていうね」
覚「……(同情)」
全「たぶんすごくいいブンガク作品なんだろうけど、おまえみたいに大あばれして殺されるほうが楽しくていいよ(嘆)」

覚「じゃあこの小説(『ダブルダブル』)せっかく出してもらったんだから、ちょっとは大あばれさせてもらえるように、二人で作者さまに頼みに行く?」
全「うん……」
覚「え何? なにその弱気? うそ、素はそういう人??」
全「だってうちの家族アルバム99.99%は九郎と御所(鎌倉殿)のフォトよ。二人のツーショットが1割くらいであとほぼほぼ九郎の」
覚「だから思い出増やしに行こうよー」
全「斬られ役どうしで?(笑)」
覚「坊主どうしで(笑)」

全「え、うそ、いまのこれカメラ回ってたの?(赤面)」
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。アリアに片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生で恋人。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。じつは料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。ミランダに片思い中。火狐(ファイアーフォックス)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは熊野での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが、詳細不明の経緯によって刺客となり、謎のダイイング・メッセージを残して世を去る。土霊族(ノーム)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)


クロードとベンジャミンのかつての同級生。いまは転校してカミーユの高校にいる。清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)

カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

滋子/ジェニファー(しげこ/じぇにふぁー)

後白河院の女御。院号は建春門院。かの平清盛の義妹(妻の妹)。美貌と知性と気くばりを兼ね備えたパーフェクトなレディ。溺愛してくる夫を甘やかしつつ、さりげなく手綱をとっている。樹霊族(ドリュアード)。

横川覚範/セバスチャン(よかわかくはん/せばすちゃん)


比叡山延暦寺(天台宗)の荒法師。四郎忠信とは宿命のライバル(に今後なるはず)。山霊族(オレアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)


醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取る。謎の使命を帯びてアリアに近づく。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

金王丸/マルティノ(こんのうまる/まるてぃの)


土佐坊ジョバンニの弟。推定年齢十歳前後(ヒューマノイド換算)。聡明で献身的。思いがけない形で佐藤兄弟の前にあらわれ、ある重大な秘密を告げる。土霊族(ノーム)。化体はカナヘビ=草蜥蜴(グラスリザード)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


一人当千の女武者。ミランダの盟友となる。素はおちゃめで尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだった。土霊族(ノーム)。

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