あなたの庭では遊ばない (11)
文字数 925文字
先にぎゅっと握ってきたのはミランダのほうだった。
フロリアンも黙って握り返した。
ミランダのアパートに向かっているところだ。
本当なら思いきり甘々な展開につなげてあげたいところなのだが、いま二人はそれどころではない。
不安と緊張。恐怖。
留守中に何事もなかったという確率のほうが、低い。
荒らされているか。何か持ち去られているか。それとも、いま、中に誰か――
鍵を鍵穴の前にかまえたまま、ミランダは思わず目をつぶる。
その手からフロリアンがそっと鍵を取り上げる。
(おれが先に入るから下がってて)
目顔で伝えた。ミランダもうなずく。
音を立てないように鍵を回し、扉を押し開く。
玄関にも廊下にも、つきあたりの部屋に射す日の光にもレースのカーテンにも、変わったところはない。
日曜、午前十時。
きのう家を出てから一日しかたっていないのに、まるで一か月と二日も前のことみたい、とミランダは思う。
そうなのだ。この小説の第一部第二章「お熱いのがお好き (6)」で波多野姉妹が遊びに出かけてから、物語内の時間はなんと二十四時間弱しか経過していない。
読者もびっくりされただろうが作者も数えてみてびっくりした。申し訳ないけれどもこの機会に脳内時計をリセットしておいてください。
自分のベッドにそろそろとミランダは腰をおろす。
枕のへこみまで、昨日のままだ。
向かい側の妹のベッドを見やる。こちらも変わりはない。
かけぶとんの上に可愛いガラスビーズのヘアゴムが落ちている。どれにするかさんざん悩んでいたアリアが「もう行くよ」とミランダにせかされて、あわててほうり出して行ったのだ。
(アリちゃん)
ふっと涙がにじむ。
フロリアンは黙ったまま、壁にもたれている。
「ありがとう、フロ。とくに何もなかっ――」
「しっ」
ミランダが息を飲むのとフロリアンが身をひるがえすのと、同時だった。
次の跳躍で彼は、天井から飛び降りてきた土佐坊ジョバンニの首を床に押さえつけていた。
火花が散り、白煙が上がる。