恋は羞恥心との戦い 2
文字数 1,169文字
連れていかれるままに普通の電車に乗り換えてしばらく。
目的地の最寄りだという駅に降りた頃には昼を過ぎていた。大きめの駅で、駅ビルになってるし、近くにも買い物ができる場所っぽい大きな建物が見える。
でも周りを歩く人たちの会話の多くが訛っていて、知らない土地に来たんだなぁって実感した。
そんな私に常葉君が問いかけてくる。
「昼はどうする? この辺でも食べられるし、屋台でいいなら目的地でも多分食べられるけど」
「屋台? お祭りなの?」
ここまで来てもまだ何に向かってるのか知らない。
でも今更それに不満はない。
きっとミステリーツアーってこんな感じなんだろうなぁ。
「うん。そんな感じ」
「じゃあそっちで……まだ移動するんでしょ?」
「後少しね。歩いても行けない距離じゃないけど、時間ないし行きはタクシー乗るよ」
これ以上お金がかかる移動方法は、と思ったけど、それはこの辺の土地勘とか帰りの時間の計画がない私の言うべきことじゃないと思うので、ただ頷いて了解する。
歩いていける程度の距離のタクシーなら私も払えるだろうし。
移動でワンメーターだけ、なんて、私だって特に珍しくはない事だ。智花と相乗りとかなら、だけど。
駅前のタクシー乗り場でタクシーを拾って、運転手さんに常葉君が「城まで」って言ったので、初めて私はお城に行くんだと知った。
訛って聞き取りづらい話し方であれこれと話しかけてくる運転手さんの相手を常葉君がしている。聞き取れた範囲だと、どうやら「今の時期、私たちのようなお客は珍しくない」らしい。「ちょうどいい頃合い」だとも運転手さんが言っていた。
話している間に車は進んで、運転手さんが「この辺でええか?」と言う頃には、私にも目的地が見えた。
たくさんの車。
歩道にもたくさんの人。
でもそれよりも……たくさんのピンク。
道路の端にタクシーが止まって、常葉君に促されるままに先に降りてしまった私は、自分の分のお金を払うことを忘れてたのに家に帰ってから気づくのだけど、この時はそれどころじゃなかったから仕方ない。
とにかく凄かったのだ。
お堀なのだろう、淀んだ水が張られた向こうに見える、どこまでも続くピンクの花の列。
さくら。
もちろん、見たことある。
学校で、出かけた先で、近所で。むしろ花としては身近なものの方だろう。
でもこんなにたくさんの桜は、初めてだった。
周りにいっぱいいる人みんな、この桜を見に来てるんだと、納得した。
だってまだ近くに来ただけっぽいのに、見える範囲あっちこっちに桜が咲いてて、私はもうびっくりしてる。
「弥生さん、弥生さん。見とれるのはわかるんだけど、ずっとここにいる訳にもいかないので、行くよ?」
「っあ、うん、はい!」
常葉君の声で我に返る。
はっと彼の方を見た時にはもう、私は手を引かれて歩いていた。
目的地の最寄りだという駅に降りた頃には昼を過ぎていた。大きめの駅で、駅ビルになってるし、近くにも買い物ができる場所っぽい大きな建物が見える。
でも周りを歩く人たちの会話の多くが訛っていて、知らない土地に来たんだなぁって実感した。
そんな私に常葉君が問いかけてくる。
「昼はどうする? この辺でも食べられるし、屋台でいいなら目的地でも多分食べられるけど」
「屋台? お祭りなの?」
ここまで来てもまだ何に向かってるのか知らない。
でも今更それに不満はない。
きっとミステリーツアーってこんな感じなんだろうなぁ。
「うん。そんな感じ」
「じゃあそっちで……まだ移動するんでしょ?」
「後少しね。歩いても行けない距離じゃないけど、時間ないし行きはタクシー乗るよ」
これ以上お金がかかる移動方法は、と思ったけど、それはこの辺の土地勘とか帰りの時間の計画がない私の言うべきことじゃないと思うので、ただ頷いて了解する。
歩いていける程度の距離のタクシーなら私も払えるだろうし。
移動でワンメーターだけ、なんて、私だって特に珍しくはない事だ。智花と相乗りとかなら、だけど。
駅前のタクシー乗り場でタクシーを拾って、運転手さんに常葉君が「城まで」って言ったので、初めて私はお城に行くんだと知った。
訛って聞き取りづらい話し方であれこれと話しかけてくる運転手さんの相手を常葉君がしている。聞き取れた範囲だと、どうやら「今の時期、私たちのようなお客は珍しくない」らしい。「ちょうどいい頃合い」だとも運転手さんが言っていた。
話している間に車は進んで、運転手さんが「この辺でええか?」と言う頃には、私にも目的地が見えた。
たくさんの車。
歩道にもたくさんの人。
でもそれよりも……たくさんのピンク。
道路の端にタクシーが止まって、常葉君に促されるままに先に降りてしまった私は、自分の分のお金を払うことを忘れてたのに家に帰ってから気づくのだけど、この時はそれどころじゃなかったから仕方ない。
とにかく凄かったのだ。
お堀なのだろう、淀んだ水が張られた向こうに見える、どこまでも続くピンクの花の列。
さくら。
もちろん、見たことある。
学校で、出かけた先で、近所で。むしろ花としては身近なものの方だろう。
でもこんなにたくさんの桜は、初めてだった。
周りにいっぱいいる人みんな、この桜を見に来てるんだと、納得した。
だってまだ近くに来ただけっぽいのに、見える範囲あっちこっちに桜が咲いてて、私はもうびっくりしてる。
「弥生さん、弥生さん。見とれるのはわかるんだけど、ずっとここにいる訳にもいかないので、行くよ?」
「っあ、うん、はい!」
常葉君の声で我に返る。
はっと彼の方を見た時にはもう、私は手を引かれて歩いていた。