恋と変化 3

文字数 1,411文字

 その後の幸田さんの攻勢は凄かった。
 少しでも時間があるときに、周りが入ろうと思えないくらいの勢いでこっちのクラスにやってきては常葉君に話しかけていく。同じグループの子たちがその周りを囲むものだから常葉君は抜け出すのにも苦労することが多くて、普段嫌そうな態度とか見せることがないのに、さすがにちょっと困った様子を見せることが増えた。
 同じクラスの他の子達も、あまり見かけない光景が続くのでざわざわした日常が続いている。
 でも誰も何も言えない。

 毎日のようにそんな日が続いた。
 私は、何も出来ないままで自分の席からその様子を見守るしかない。

 そんな中、常葉君から私へのメッセージには、時々弱音のようなものが入ってきた。学校では直接話すことはほとんどないけど、メッセージは毎日のように届く。
 その内容が、常葉君の様子を知る全部。
 休み時間が終わって幸田さんたちが帰った後で、ぽんっと届く声。
「本当苦手なんだけど ああいう人」
 幸田さん可愛いのに、と思うけど、常葉君がそう言うのにちょっと安心してる私もいた。
 だって可愛いし積極的だから、もし気になるなんて言われたら勝ち目なんてない。
 私に勝てそうな部分なんてない気がする。
 あんな風に積極的にどんどん来られて、好意を惜しげもなく見せられて、しかもその子はとても可愛くて性格だって悪くなくて。そんなの、同じように好きってことが知られてても、自分からは積極的なことなんてできない臆病な私が負けるのなんて目に見えてる気がする。

 漫画とかだって、最後に選ばれるのはああいう子だ。勇気を持って恋に向かえる子。
 主人公になれるのはああいう子だから。

 こういうのは勝ち負けじゃないけど……そうなったら私は、今までみたいにただ好きってだけじゃいられないだろうなって思うから、幸田さんがよく来るようになった後もメッセージの中の常葉君が何も変わらなくて、それが嬉しかった。
 嬉しいなんて、常葉君には言えないけど。
「あの人の恋 とっちゃダメですかね弥生さん」
「ダメ」
 常葉君は弱音と一緒にそんなことを何度か言い出したけど、でも、それを私は良いって言えない。
 そこはやっぱりダメだと思う。
 むしろあんなエネルギー見せられたら余計に。幸田さんの恋は、幸田さんが向き合っていくべきだ。はたから見てる私が複雑でも、常葉君が面倒そうでも、取って終わって良いものじゃない。

 その日も元気な幸田さんにまとわりつかれる常葉君を放課後に見た後、家に帰った金曜の夜。
「最近あの人の相手とかで疲れた なんか褒美ほしい」
 常葉君からそんなメッセージが来た。
 いきなりなんだろう。褒美って。
 でも、私の意見を聞いて幸田さんの恋を取らないでいてくれてるのはわかってるから、そう言われると私も何かしないといけない気がしてくる。常葉君が今まで通りにしてるならこんな苦労してなかったんだと思うと、私のわがままを通してるわけで、申し訳ないし。
「何できる?」
 そう返したけど、常葉君が何か欲しがるのってあんまり想像つかない。なんとなく物欲とか少なそうな印象。
 私にできることなら何でもしてあげたいけど。
 あ、でもお小遣いそんなにもらってないし、買えるものは限られてるなぁ……。
 そんなことを思いつつしばらく待ってたら、返事が来た。
「次の日曜 10時」
「空けといて」
「無理なら言って」
 え。
 え?
 えーーーーーーーーーーーーーーーーー!?
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