恋の呪文
文字数 1,271文字
「ねぇ恋歌 、常葉 くんのことどう思う?」
「えー?」
よくある問いかけ。休み時間の暇つぶし。
人気のある男子の名前を出して、あーだこーだと感想を並べる。
別にそれをもって相手とどうなりたいなんて思ってるわけじゃない。
むしろ相手が高嶺の花だからこそ出来る雑談だ。たとえ同じクラスメイトであっても、そういう相手はテレビの向こうの芸能人に等しい。噂の立つ相手はもっと可愛い誰かで自分じゃない。だからこそ安心して話題に出来るのかもしれない。
「そーだね。かっこいいし、優しいし、頭がいいし、運動もできるし」
この時、話題に上った常葉くんは、同じ学年どころか上下の学年の女の子だって注目している、うちの高校できっと一番人気がある男の子だ。
容姿端麗、頭脳明晰、性格王子、運動得意な、本当に非の打ち所のない相手で、2年になって同じクラスになった女子たちは皆、一様に喜んでいた。私も。
でもだからって付き合いたいと思ってる子は少数派だろう。私だってそうだ。
あまりに完璧すぎるから、自分とは釣り合わないなんてほとんどの女子はわかってるし、たまにそんな奇跡を夢に見る程度で満足する。同じクラスとして会話できる機会がある可能性が生まれただけで満足する。
そういうものだ。
私たちは全員が漫画のヒロインになれないことを知っている。
…………のだけど。
「好き……かな」
「だーよね! 私もだよー! 常葉くんを嫌いな子とか見たことないわー」
私の言葉に明るい声が返ってくるのは、それがライバル宣言にすらなり得ない、どっちかといえば「同じ芸能人が好き」という同志宣言だとこの友人が認識してるからだ。
この子も、私も、彼を本気で狙って好き宣言するほど自分を高く見積もってない。
…………のだけど。
(あー、失敗したー)
この時の私の脳内ではそんな言葉が巡ってた。
そんなつもりじゃなかったのだ。
その言葉を言うまで。
完全に忘れていただけだ。
その言葉を言うまで。
「本当同じクラスになって嬉しいよねー! 眼福?っていうの?」
「…………」
「係りや班が一緒になる可能性もちょっとだけあるしね。私最後まで席替えのくじは本気でいくよ」
「…………」
「とりあえず次は6月頃かな……って、恋歌? ちょっとどうしたの」
「……あ、うん……なんでもない」
「うっそだ! 顔赤いよ!? 風邪? 保健室行く?」
心配してくれる友人には悪いけれど、私がかかってるのは風邪より迷惑な病気だ。
ずっと慎重に避けてきたのに、久しぶりにかかってしまった。
ドキドキと高鳴り出した心臓は、その動きをすぐに緩めてはくれそうにない。こんなの、本人を前にしたら爆発するかもしれない(しないのはわかってるけど)。
高校から知り合ったこの友人は知らない。私のこの悪癖を。知られたくもない。
「大丈夫だから」
なので、苦笑いでごまかした。
ちょうどよく、昼休みが終わるチャイムが鳴り響いてくれたから、それ以上会話は続かなかった。
私の恋は簡単に始まる。
まるで呪文のよう。
自分で言った好きという言葉一つで、私は恋の暗示にかかる。
「えー?」
よくある問いかけ。休み時間の暇つぶし。
人気のある男子の名前を出して、あーだこーだと感想を並べる。
別にそれをもって相手とどうなりたいなんて思ってるわけじゃない。
むしろ相手が高嶺の花だからこそ出来る雑談だ。たとえ同じクラスメイトであっても、そういう相手はテレビの向こうの芸能人に等しい。噂の立つ相手はもっと可愛い誰かで自分じゃない。だからこそ安心して話題に出来るのかもしれない。
「そーだね。かっこいいし、優しいし、頭がいいし、運動もできるし」
この時、話題に上った常葉くんは、同じ学年どころか上下の学年の女の子だって注目している、うちの高校できっと一番人気がある男の子だ。
容姿端麗、頭脳明晰、性格王子、運動得意な、本当に非の打ち所のない相手で、2年になって同じクラスになった女子たちは皆、一様に喜んでいた。私も。
でもだからって付き合いたいと思ってる子は少数派だろう。私だってそうだ。
あまりに完璧すぎるから、自分とは釣り合わないなんてほとんどの女子はわかってるし、たまにそんな奇跡を夢に見る程度で満足する。同じクラスとして会話できる機会がある可能性が生まれただけで満足する。
そういうものだ。
私たちは全員が漫画のヒロインになれないことを知っている。
…………のだけど。
「好き……かな」
「だーよね! 私もだよー! 常葉くんを嫌いな子とか見たことないわー」
私の言葉に明るい声が返ってくるのは、それがライバル宣言にすらなり得ない、どっちかといえば「同じ芸能人が好き」という同志宣言だとこの友人が認識してるからだ。
この子も、私も、彼を本気で狙って好き宣言するほど自分を高く見積もってない。
…………のだけど。
(あー、失敗したー)
この時の私の脳内ではそんな言葉が巡ってた。
そんなつもりじゃなかったのだ。
その言葉を言うまで。
完全に忘れていただけだ。
その言葉を言うまで。
「本当同じクラスになって嬉しいよねー! 眼福?っていうの?」
「…………」
「係りや班が一緒になる可能性もちょっとだけあるしね。私最後まで席替えのくじは本気でいくよ」
「…………」
「とりあえず次は6月頃かな……って、恋歌? ちょっとどうしたの」
「……あ、うん……なんでもない」
「うっそだ! 顔赤いよ!? 風邪? 保健室行く?」
心配してくれる友人には悪いけれど、私がかかってるのは風邪より迷惑な病気だ。
ずっと慎重に避けてきたのに、久しぶりにかかってしまった。
ドキドキと高鳴り出した心臓は、その動きをすぐに緩めてはくれそうにない。こんなの、本人を前にしたら爆発するかもしれない(しないのはわかってるけど)。
高校から知り合ったこの友人は知らない。私のこの悪癖を。知られたくもない。
「大丈夫だから」
なので、苦笑いでごまかした。
ちょうどよく、昼休みが終わるチャイムが鳴り響いてくれたから、それ以上会話は続かなかった。
私の恋は簡単に始まる。
まるで呪文のよう。
自分で言った好きという言葉一つで、私は恋の暗示にかかる。