恋、始まってます 1

文字数 688文字

 寝て起きたら、前までの自分に戻ってるかもなんて。
 小学校の頃には何度か思ったけど、一度もそれが叶った記憶はない。
 今回もやっぱりそうで、目覚めてすぐに常葉君のことを思い出してひゃーっと枕に顔を埋めてしまった。だって今日も普通に学校はあるのに、私はもう昨日までの私じゃなくなってて! しかも常葉君は同じクラスで!!
「どういう顔して行けばいいのよぉ」
 ああああ、もおおおお!

 じたばた
 もだもだ

 身悶えなんてしてる間に時間が過ぎてしまったんだろう。
「恋歌ぁ、時間大丈夫なのぉ〜?」
「! 大丈夫、じゃないっ」
 外から母さんの声がしてはっと時計を見たら、遅刻ギリギリの時間。
 慌てて起き上がって身支度をして、自分の部屋から飛び出すように出る。そのままバタバタとリビングまで走って行くと、途中で洗面台から出てきた父さんとぶつかった。
「ふぎゃ!」
 私は思いっきり顔をぶつけて痛いけど、父さんは平気そうだ。
「おー、大丈夫か?」
「大丈夫ぅ〜、鏡空いてる?」
「今空いた……急いでるんか? 髪やろっか?」
 シャツを着た父さんは、会社に行くまでまだ時間があったはず。
 そう言ってくるのは、昔、私の髪を毎朝整えるのは父さんの役目だったからだ。女の子の髪をいじるとか、普通の家だと母さんの役割なんだろうけど、うちの母さんは任せるには色々と問題があって……ずっと父さんの役目だったのだ。
 だから今でも時々こうして提案してくれる。
「うー、じゃ、適当でいいからお願いーっ」
「了解」
 方向を変えて洗面台に向かう私の後ろから父さんが来たのを確認して、私は洗面台にある小さな扉を開いて自分の歯ブラシを取り出した。
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