恋は言い辛い 3

文字数 1,221文字

 常葉君とお出かけはしたい。
 でも親にはまだそれを正直に言う勇気はない。

 さらに言えば日曜に智花を一人にしたくないなっていう気持ちだってあったけど、それを言うと逆に頑なになるんだろうなって長年の付き合いでわかってたから、言わなかった。
 自分の家が居心地悪い智花が、見た目が良すぎて色々変な人まで引き寄せてしまう智花が、休日にふらふらすることの危険度は、私が常葉君になにかされるよりずっと高い。
 でも智花にそれを言っても「大丈夫」としか言わないだろうから。
 むしろそんなこと言っちゃうと、迷惑かけないように一人になろうとしてしまうから。

 本音の一部は隠して、私は電話の向こうの智花に縋る。
「お願い智花、協力してーっ」
「えー。あんたの親が不自然に思わない感じに、日曜あんただけがいない状態を作れと?」
「そう!」
 聡い智花はお願いと言うだけでだいたいを把握してしまう。
 昔からそれだけ私が頼って来た証拠、なので情けないけど。
 で、でも智花は自分にも他人にもそこそこ厳しいから、何でもかんでも助けてくれるって子じゃない。助言だけとか、突き放したりとか、その時々で反応は色々。
「出来ればこう、絶対に見つからない感じに、家かどっか分かる範囲で親と居てくれると」
「……やれと。それを私に、やれと」
「他に頼めないもん」
 私と智花が二人で出かける、なら不自然さはどこにもない。よくある日曜だ。
 でもその場合、親もどっかに出かける可能性があるし、今回は常葉君がどこに行くかなんてわかんないから、万が一どっかで見つかってしまう可能性は残る。しかもうちの親、結構気まぐれだし行き先が読めない。常葉君だってどこに行くか前もって教えてくれるとは限らない。
 だから一番確実なのは、智花に親といてもらうこと、なのだ。
 コレはあまりない状況だけど、でもうちの親はきっと理由があれば嫌がらない。
 智花の状況は、私だけじゃない、親だって知ってるから。私か風邪をひいて寝込んでる時ですら「あの子を一人にさせるのはねぇ」って言って適当な理由を作って智花を家に呼ぶくらいには親も気にしてるのだ。もちろんその時は私と一緒じゃなくて、お母さん辺りと時間を潰してるみたいだけど。

 私にとっての大事な親友を大事にしてくれるうちの親は好き。
 でもそれとこれは別問題!

 常葉君のことはまだ言えそうにないから。
「わかったわよ。ちょっと考えてみる。後で掛け直すから待ってて。どんな理由でもいいのよね?」
「その辺は任せるよ。智花だし」
「はー……本当にあんたってば」
 ぶつぶつ文句を言っていたけど、今回の智花は引き受けてくれた。私自身だけの工夫じゃどうしようもない(あるいは失敗する)って思ったからだろうと思う。智花は厳しいけど、本当に難しい問題には必ず手を貸してくれるから、今回もきっと協力してくれるってわかってた。
 嬉しいけど、ちょっとだけ申し訳なさが募る。

 ごめんね智花。
 いつか恩返しはするからね!
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