恋は切なく難しい 2

文字数 1,010文字

 きっと名所なんだろう。
 どこもかしこも人だらけで、歩道が続いてベンチなんてほとんどないから、ゆっくり休んで見るような場所はないけど、あまり時間もなく見て歩くだけの私たちにはそれが丁度良かったのかもしれない。
 昔お城があった広いその場所(今も天守閣っぽいものだけが、敷地の真ん中あたりにあるらしい)は、普通の公園と違って、むしろ歩いて回るのが普通なようだった。
 私たち以外の人たちもみんな、各々で人の流れに合わせながら桜を見上げて歩いている。
 ほとんどの桜がまだ散る直前の、本当に満開になったばかりの辺りで、とても綺麗で……忘れないように、私はずっと桜を見上げる。
 写真撮れればいいんだけど、その為に立ち止まるのは難しそうだった。
「弥生さん」
「はい?」
 ふいに名前を呼ばれて常葉君の方を見る。
「なんでそんな顔してるの」
「え?」
 何を言われているのかわからない私に、常葉君は困ったような顔をした。
「自分で気づいてないんだ」
「何が? え、そんなに変な顔、してる?」
 鏡ないしなぁ、と片手で頬に触りつつ思ってたら、「ちょっときて」と常葉君が人の流れを縫うように道の端にまで連れてきた。腕を組んでるから引っ張られるままに一緒に来た私に、向かい合うような位置に常葉君がくる。
 腕はそのままだ。
 だからすごい近い位置にいて、常葉君はもう片方の手の甲で私の頬にちょっと触れる。
「泣きそう」
 私が?
「泣くなとか言う気は無いけど、僕はどうすればいいのかな」
「まって、泣かないよ? 常葉君の気のせいだと」
 確かにちょっと落ち込んだ気分にはなってたけど、泣く訳ない。そもそもこんな気持ちを常葉君に言う気もないのに、泣くなんて説明もできないこと絶対する訳ない。未来がわかんないなんて、もう二度とないんだろうなって、そんなの私だけが抱えることで、常葉君に言えない。
 重いとか、思われたくない……できるだけ長く一緒にいたいのに。
 だからここはどうやってでもごまかさないといけないくて。
 私はどうにか笑ったけど、それを見て常葉君は不機嫌そうな顔になってしまった。
 うまく、笑えなかったんだろうか?
「あのね弥生さん」
「はい」
「嘘つくなとも隠すなとも言う気は無いけど、その顔で誤魔化されて欲しいの? 本気でそれを望んでるの?」
 口調もどこか不機嫌で、冷たく聞こえる。
 何がそこまで常葉君を不機嫌にさせたのかわからなくて、もう、どうしていいのかわからない。
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