恋は返品不可 3

文字数 1,456文字

 おみやげ物屋さんに入った私たちは、入口から順に並んでいるお土産を見る。
 入口周りにはお菓子がいっぱい並んでいた。
「親御さんに買うの? それから上崎と?」
「んー……買いたいけど、ここの買ったら、今日どこに行ってたかわかっちゃうよ?」
「あ」
 お菓子は全部明らかにこの辺のお土産ってわかる感じだ。
 お土産だから当たり前なんだけど。
 でもそれだと、地理に疎い私はともかく、親や智花が見て行き先をすぐ予想できないはずがないし、もしその場合、さすがに高校生の娘の出かけた先としては不自然、っていうか不安になったりしそうな気がする。
 智花とかすごい怒りそう。
 そりゃまぁ智花にはどっちにせよ言うつもりではいるけど、流石に箱を見て地域がすぐわかるお土産というのは……なんだかな、だ。
 万が一それを持ち帰った智花の方が、親にあらぬ疑いをかけられる羽目になっても困るし。
 だからここで見にきたのはそういうお土産じゃない。
 広めのおみやげ物屋さんの中には、食べ物以外のものも並んでいる。むしろ食べ物以外の雑貨の方が多い。キーホルダーとか、なんかそういうの。
 名産なのか、ガラスでできた食器系が棚に整然と並んでいる区画もあって、そこに入ってすぐ目についたガラスのコップに私は手を伸ばす。

 さっき見てきた桜を思い出すような綺麗なピンク。

 よく見たら、同じように後ろに並んでるコップも、全部微妙に色合いが違う。
 普通にどこの店でも売ってるようなガラスのものより、ちょっと肉厚で重い感じが、一個一個手作りの名産品って感じ。
「さっきの桜みたい」
 常葉君も同じ印象を抱いたんだろう、私の手の中のコップを見てそう言っている。
 だから私はそれと、もう一個、同じ色のコップを選んで会計をした。
 割れないようにしっかりと包まれたコップが入った紙袋を受け取って。お土産用にガラスのブランド名が入った紙袋もあったけど、自宅用だからとそれじゃなく、ただのよくある白い袋の方に入れてもらう。
「これなら買って帰ってもすぐわかんないでしょ」
「そうだね」
「見られたってそれっぽくないし」
 でも、自分で見ればあの桜を思い出せる。今日見た桜のあの色と同じなんだって、コップを使えばきっと思い出せるから。
 なくなる食べ物なんかよりずっといい。
 いつか割れるものだとしても……きっと残るものはある。
「僕も何か買うかな」
 レジから離れて受け取った白い袋の中を整えていたら、常葉君もさっきのガラスが並んでた方を見ながら言った。今のは私の買い物にずっと付き合ってただけだから、常葉君は何も手に取ってない。
 そのままそっちに行きそうな常葉君に私は急いで押し付ける。
 自宅用だけどコップの数だけ入れられていた別添えの小さな袋。
 その片方に、一個だけコップを入れて。
「はい。今日のお礼」
「え?」
「……要らないなら、どっちも私が使うし……」
 これなら智花とか母さんとお揃いで使えそうだから、それはそれで構わないの。
 弱気に付け足してしまったのは、買った後にそれは男子が使うには可愛すぎる色だと気づいたからだった。
 でもじゃあこのまま何もしないでとか、他に何か、とか考えられなくて。お揃いにこだわったんじゃなく、ただ、あの色を見て今日のことを常葉君も思い出してくれたらなぁ、っていう気持ちの方が強い。
 とは言えこれはさすがにやりすぎだったかなぁと、反応がない常葉君を前に弱気の方が勝って「やっぱりなし」と言いかけた瞬間。
「ありがと」
 押し付けた手が軽くなって、ものすごくほっとしてしまった。
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