恋、おもい 3

文字数 1,184文字

「それとも振られたかった?」
「!」
 常葉君の言葉に目を向けたけど、部屋が暗くなってるせいで表情がよく見えなくなっていた。
 振られたい?
 誰が?
「一晩寝たらちょっとは冷静になったんじゃない? だから本当は」
「っ、馬鹿!」
 やっぱり常葉君、大事なことわかってない。
 自分で恋とかしないからなのかな? すぐそういうこと言えるの、どうかと思うよ。
「普通に恋をしてて振られたい人なんていないよっ!」
 普通じゃない恋ならわからないけど、普通に恋してるなら、やっぱり両思いになるのが最初に目指したい場所だし、そこをいらないと思うならきっとそれはもう恋じゃなくなってると思う。
 可能性が低くたって、成就して欲しいのが恋だから。
 告白しない、想うだけで幸せなんてたまに聞くけど、それだって両思いになったらもっと幸せに決まってるし、振られたくないからこそなかなか告白に踏み出せないんだよ。
 仮にどういう風になったって、最後は幸せな結果が欲しい。他の誰かが振られても、自分の恋は成就して欲しい。
 勝手だとは思うけど、恋なんてそういうものだ。
 私の恋だって。
「今さっき好きって聞いただけでわーって感じなのに! 恋に冷静なんてないよ! 振られて終わりたくなんてないよ!  人の恋を取ってるのにそういうのわかってないのどうかと思うーっ」
「わ、わかった、わかったから落ち着けって」
 はぁはぁ。
 一気に話して息が切れちゃった。
 この部屋に隠れてるんだからこんな声出しちゃダメなのに。忘れてた。
 私が呼吸を落ち着けるのを待ってから、常葉君が言った。
「本当、お前って面倒なの」
「……女の子なんて男の子から見れば本当は面倒なものだよ」
 なんとなくそう言い返したら、常葉君は「知ってる」と苦笑する。それが単なる同意じゃなくて、なんかとても実感をともなった言葉だというのが伝わってきて、私はちょっとだけ不思議に思う。
 すごくモテるからこそ、今までいろんな女の子を見てきた経験があるのかな?
 それとも……誰か、付き合ったこととか、あるのかな。
 普通に考えれば、こんなかっこいい人が今までずっとフリーだったという方がありえないのかも。
 もしかすると今だって。
「そんな顔するなって」
 私は常葉君の顔見えないのに、常葉君は見えてるらしい。
 窓の位置の問題かな? 私の位置だと逆光?のような感じになってるから。
「だから、俺は、お前の面倒さは、好きだよ」

 …………。
 ……ずるい。
 ずるいなぁ。

 常葉君は、思ったことを言ってるだけなのに。私ばっかりドキドキして。
 お互いの気持ちの差を、こんなことからすごく実感してしまう。それなのに、面倒だと言われつつもそれを否定されないことを、すごく喜んでる私がいる。それはもしかしたら、いいところを褒められるよりもずっと、嬉しい気持ちで。

 だから常葉君。
 嫌いになるなんて、無理だよ。
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