恋と呼び出し 1
文字数 1,458文字
常葉君が休んだ翌日。
いつも通りに登校してきた常葉君は教室でみんなに囲まれてて、あれこれ心配されてりしていた。
囲んでいるのは昨日騒いでいた女の子たちだけじゃない、男子も多くて、本当に人気がある人なんだなぁって分かる。
「常葉君、もう大丈夫なの?」
「うん、平気だよ」
「心配したんだよー、誰も連絡先知らないしさ」
「ごめんね」
よくあるやりとりが聞こえる中で、私は自分の席に着く。
元からあの輪に入るようなタイプじゃないし、昨日のことがあって余計に私はそっちの方が見られなかった。
同じように輪の中に入れないような子たちの中でも、向こうに耳を傾けている人は多くて、教室内は普段より始業前のおしゃべりに興じている人は少なめだ。
だから、聞く気は無くても彼らの話し声はよく聞こえてきた。
「ねぇねぇ、やっぱり昨日みたいな日のためにさ、連絡先交換しようよ! その方がいいよ!」
「そうだよそうだよ! 別に私たちだけとじゃなくていいからさ、ね!?」
「あ、俺も知りたい」
「連絡できないと不便じゃね?」
にわかに盛り上がるのが聞こえる。
女子だけじゃなく男子も、常葉君の連絡先を知りたがっている。
一気に話は盛り上がって、当たり前にそうすべきだって感じになって、そのままクラスの大半と交換を始めてもおかしくないくらいの雰囲気になっている。
そうだよね。皆に人気の常葉君だもん。連絡先知りたい人はいっぱいいるよ。
今常葉君のそばにいる彼らだけじゃない。
みんなとの連絡先の交換という話に、その周りにいる、普段からそういう派手なグループとは関わらない子達までなんとなくそわそわし始めた、その時。
「ごめんね」
はっきりと、常葉君は言った。
みんなの声を断ち切るような、よく通る声で。
「元々これ、親のでさ。教えるなって言われてるんだ。前に教えた時に知らない人にまですごい広まっちゃったことがあって、しつこく電話鳴らされたりとかあって大変だったからさ、自分の金で買えるようになるまではもうダメだって言われてるんだ。で、このスマホは、親としか連絡してないの」
…………常葉君、親はいないって、言ってたのに。
まるで本当のことのようにスラスラと話す常葉君に、周囲は一気にトーンダウンする。ほんの少しの沈黙の後で、みんなそれぞれ顔を見合わせながら喋りだす。
「えー、親厳しいー! うちらそんなことしないのにー!」
「ねー」
「でもそれならしゃーないかー。確かにやりそうな子いるかもだしー?」
「やっだー超しつれーい! やんないのにー」
「まぁ常葉だとそういうのあるのかもな。こえぇなぁ」
「俺らじゃ考えられないけどな!」
「残念ー」
常葉君みたいな格好良い人なら、そういうこともあるかって皆納得してしまったみたいだ。
常葉君がとても困った顔していたから、それ以上誰も強く言えなかったっていうのもあるだろう。特に、常葉君に嫌われたくない人は多いから、あんな風に言われたら引き下がるしかなくなる。
そのまま会話は何事もなかったかのように他の方向に流れ出した。
ただ、私は、固まっていた。
別に常葉君が嘘をついていることが衝撃だったとかじゃない。
私の知っている常葉君だったら、不用意に無意味に嘘は言わないけど、本当に必要な嘘は普段から用意しているように思う。守らなければならない秘密が多そうな人だ。私だって知らないことがいっぱいあるんだから。
だから気になったのはそこじゃなくて。
そこまでして教えたくないものを、私なんかが知ってていいのかなって、思ってしまったからだ。
いつも通りに登校してきた常葉君は教室でみんなに囲まれてて、あれこれ心配されてりしていた。
囲んでいるのは昨日騒いでいた女の子たちだけじゃない、男子も多くて、本当に人気がある人なんだなぁって分かる。
「常葉君、もう大丈夫なの?」
「うん、平気だよ」
「心配したんだよー、誰も連絡先知らないしさ」
「ごめんね」
よくあるやりとりが聞こえる中で、私は自分の席に着く。
元からあの輪に入るようなタイプじゃないし、昨日のことがあって余計に私はそっちの方が見られなかった。
同じように輪の中に入れないような子たちの中でも、向こうに耳を傾けている人は多くて、教室内は普段より始業前のおしゃべりに興じている人は少なめだ。
だから、聞く気は無くても彼らの話し声はよく聞こえてきた。
「ねぇねぇ、やっぱり昨日みたいな日のためにさ、連絡先交換しようよ! その方がいいよ!」
「そうだよそうだよ! 別に私たちだけとじゃなくていいからさ、ね!?」
「あ、俺も知りたい」
「連絡できないと不便じゃね?」
にわかに盛り上がるのが聞こえる。
女子だけじゃなく男子も、常葉君の連絡先を知りたがっている。
一気に話は盛り上がって、当たり前にそうすべきだって感じになって、そのままクラスの大半と交換を始めてもおかしくないくらいの雰囲気になっている。
そうだよね。皆に人気の常葉君だもん。連絡先知りたい人はいっぱいいるよ。
今常葉君のそばにいる彼らだけじゃない。
みんなとの連絡先の交換という話に、その周りにいる、普段からそういう派手なグループとは関わらない子達までなんとなくそわそわし始めた、その時。
「ごめんね」
はっきりと、常葉君は言った。
みんなの声を断ち切るような、よく通る声で。
「元々これ、親のでさ。教えるなって言われてるんだ。前に教えた時に知らない人にまですごい広まっちゃったことがあって、しつこく電話鳴らされたりとかあって大変だったからさ、自分の金で買えるようになるまではもうダメだって言われてるんだ。で、このスマホは、親としか連絡してないの」
…………常葉君、親はいないって、言ってたのに。
まるで本当のことのようにスラスラと話す常葉君に、周囲は一気にトーンダウンする。ほんの少しの沈黙の後で、みんなそれぞれ顔を見合わせながら喋りだす。
「えー、親厳しいー! うちらそんなことしないのにー!」
「ねー」
「でもそれならしゃーないかー。確かにやりそうな子いるかもだしー?」
「やっだー超しつれーい! やんないのにー」
「まぁ常葉だとそういうのあるのかもな。こえぇなぁ」
「俺らじゃ考えられないけどな!」
「残念ー」
常葉君みたいな格好良い人なら、そういうこともあるかって皆納得してしまったみたいだ。
常葉君がとても困った顔していたから、それ以上誰も強く言えなかったっていうのもあるだろう。特に、常葉君に嫌われたくない人は多いから、あんな風に言われたら引き下がるしかなくなる。
そのまま会話は何事もなかったかのように他の方向に流れ出した。
ただ、私は、固まっていた。
別に常葉君が嘘をついていることが衝撃だったとかじゃない。
私の知っている常葉君だったら、不用意に無意味に嘘は言わないけど、本当に必要な嘘は普段から用意しているように思う。守らなければならない秘密が多そうな人だ。私だって知らないことがいっぱいあるんだから。
だから気になったのはそこじゃなくて。
そこまでして教えたくないものを、私なんかが知ってていいのかなって、思ってしまったからだ。