恋は返品不可 1

文字数 1,277文字

 同時に来た湯気を立てるご飯を前に、なんとなく先には食べ辛くて常葉君の様子を伺うと、肩が震えているのがわかる。
 顔は伏せてるままだから見えないけど。
 大丈夫かなとちょっと気になるけど、それ以上にそろそろ私の空腹も限界なので。
「常葉君? 冷めるよ?」
 お腹が空いてるから、匂いだけでも結構な刺激だ。早く食べたい。
 そう思って声をかけたら、うつむいていた常葉君がちょこっと顔を上げた。

 なんかすごい笑ってる。

「……あー、僕はまだ、食べられないんで、先に」
「なんでそんな笑ってるの」
 えーと?
 明らかに笑いすぎてるから今すぐ食べれないっぽいのはわかったけど、今そんな笑うような話ししてたっけ? 今まで結構真面目な話ししてた気がするんだけど。
 なんとなくムッとして指摘したら、もう我慢できないって感じで常葉君がさらに笑う。
 テーブルに肘をついて、笑いすぎて涙まで出そうな感じ。わけわかんない。
 もう。
「先食べるよ」
 先いいって言われたし、待ってられないから私はスプーンをドリアに突き刺した。
 しばらく食べてたら、向かいの常葉君の方も落ち着いたのか食事し始めたのがわかる。結局、何をそんなに笑ってたんだかわかんない。常葉君ってたまにすごい変な人だと思う。わかってたけど。
 時間差で食べ始めたのに、食べ終わるのがほぼ同時だったのは、食べる速度の差。
 普通に一緒に食べ始めたら、どんなものだって確実に私の方が後になるんだろう。
「さっきはごめん」
 紙ナプキンで口元を拭いていた私に、常葉君が話しかけてくる。流石にもう笑ってないけど、なんとなく雰囲気が柔らかい。
「弥生さんってさ、やっぱり変わってるよね」
 もう何度目か常葉君に言われたその言葉。智花からもよく言われる言葉。知ってるなら、わざわざ言うことないのに。どうせ私は変ですよ。
 でもそれ、あんなに笑ってた常葉君が言うの?
「知ってるでしょ、そんなの」
 なんとなくムッとしたのを引きずってるせいで不機嫌な感じに答えたのに、常葉君の方は気にした様子もなく頷いて、テーブルの端に丸めて置かれてる伝票に手を伸ばした。その動きに支払いを思い出して(なんで毎回忘れるんだろう)私が手を伸ばすよりも早く、常葉君の指先がそれを持って行ってしまう。
 流石に止める言葉を言おうとした私に、伝票を確認している常葉君が言った。
「知ってたけど、僕はそういうところがすごく好きなんだなぁってはっきりしちゃって」
 言いながら常葉君が片手を上げて店員さんを呼ぶ間、私は動けなかった。

 だって。
 常葉君に好きって言われた。

 多分それは前に「面倒さが好き」って言った時と同じような意味だってわかってるけど、それでも私の方は恋的な意味で好きなんだから、言われればドキッとしてしまうに決まってるよ!

 ん?
 ……そういえば……。
「常葉君、結構変わったよね」
 前に言われた時と今、かなり常葉君の印象っていうか雰囲気っていうか喋り方っていうか、なんか色々変わってるような気が……するんだけど、これは絶対気のせいじゃない、よね?
 そう言うと、また常葉君は笑いだした。
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