恋の始まり 3
文字数 1,088文字
…………。
今の何。
教室と廊下の間には窓がある。透明のそれに彼が見えた瞬間、私は座ってた席から飛び離れて窓の下に素早く逃げ込んでいた。窓の下の壁が邪魔になって、廊下からは私が見えない位置だ。
ばくばくという心臓を抱えて息をひそめる私の向こうで、常葉くんと、たぶん彼と一緒にいた子(他のクラスの子で、可愛いと有名な子だ)が会話をし始めた。人気のない廊下で、いきなり始まったのが告白だった時には、私の心臓は止まるかと思ったけど。
途中、おかしくなかった?
見えないけど、普通の告白では聞かないような言葉を聞いた。
そして何より、告白した子が、いきなり……熱を失ってた。さっき好きだと言ったその口で、何度も謝って、全く興味がなくなったような態度になって。
常葉くんは何も気にしてなくて、平然としてた。
そんなこと、あるだろうか?
告白した直後に、相手に振られたわけでもないのに興味をなくすなんて。
そんな、そんなの。
普通起こる?
何か変。なんか怖い。
窓の下で、恋とは違う意味でも心臓がばくばく言い始めた私には、廊下の向こうの足音の片方がこちらにやってくるのは気づかなかった。
教室の引き戸が、大きな音を鳴らしながら動いたことでやっと気づいても、時すでに遅し。
「…………あ」
教室に入ってきた常葉君と、目が合ってしまった。
さっきまで廊下で告白を受けてた彼と、見るからにそれを隠れて聞いてた(としか見えない)私。
声を出すのも忘れて私は息を飲む。
動揺しすぎると、私は何もできなくなるみたい。反射的に動くタイプもいるんだろうけど、私は常葉君の視線を受けたまま身動きも出来なくなった。
その間に、廊下の向こうの足音は遠ざかる。さっきの告白した子だろう。
聞こえなくなった辺りで、常葉君はやっと話し出した。
「さっきの、聞いてた?」
まだ声が出ないけど、ここでごまかしても仕方ないから、ウンウンと頷く。
本当に、盗み聞きする気はなかったのだ。
ただ彼の姿が見えた瞬間に体が勝手に動いてた。多分、恋をしたばかりで二人きりになるのに耐えられなかったから、もし彼が入ってくるなら教室を飛び出ようとかしてたんだと思う。ただ移動中に女の子の姿も確認できたから、逆に出られなくなったけど。
こんなことなら堂々と机に座ってるべきだった。
そうすれば、仮に声が聞こえてしまったとしてもこんなに気まずくはなかったのに。
「全部?」
さらに頷く。
全部聞いてしまったから、こんなに動揺してるんだけど。
「そっか」
見上げた常葉君の顔は、綺麗に笑っていて。
私はドキドキしたまま、それをちょっと怖いと思った。