恋は準備できない 3
文字数 1,350文字
智花の後ろ姿が見えなくなってから常葉君の方を見ると、視線が合ってびっくりした。
「常葉君?」
「あれが何度か話に聞いてた親友なんだ」
「うん。美人でしょ!」
自慢なのと言えば、ちょっと考えた常葉君がふっと笑う。続けて何か言いたそうに見えたけど、待ってもそれ以上は何も言ってこなかった。
その間に私は改めて今日の常葉君を見る。
……うわぁ……。
当たり前なんだけど、常葉君とは学校でしか会ったことがない。
つまり会うときはいつも学校の制服だった訳で、私服の常葉君を見るのはこれが本当に初めてってことになる、んだけど。私服の常葉君ってどんな風だろうなって昨日の夜も考えすぎてちょっと寝不足になってるくらいだけど。
予想以上に、でも予想通りに、常葉君は格好いい。
別に特別変わった服を着てる訳じゃない。高そうな服でもないし、かしこまった服でもない。その辺のファストファッションとかで売ってそうな上下だ。片方の肩に大きく無いリュックを下げてる、服装だけならとても無難なもの。その辺の普通の男の子が普段着ていそうな組み合わせ。
なのに常葉君が着てるだけで格好いいのは、恋による色眼鏡かな。それとも常葉君の顔のせいかな。
雑誌とかで「これが最新トレンド!」とか書かれて出てても鵜呑みにしちゃいそうだ。
普通の服装なのに。
思わずまじまじと常葉君を上から下まで何度も見ていたら、常葉君が私に言う。
「そういえば弥生さんの私服初めてだ」
学校でしか会ってないのは常葉くんの方も同じ。
だから制服姿しか見たことないのも同じで、だからこの瞬間同じことを考えてたのがその言葉でわかった、けれど……。
「あー、う、あのっ」
「どうした?」
「………………あまり見ないで、ください」
いざ自分がそういう風に見られるとわかると、恥ずかしすぎる!
今絶対顔赤い。
もちろん私だって、それこそギリギリまで今日の服は悩んで、直前に智花にもチェックしてもらってオッケー出た物を着て来てる。だから変じゃない、と思う。変だったら智花なら絶対に言うもん。
だから見られておかしい格好じゃないってわかってるけど、そういう問題じゃない。
「見ないと話せないけど?」
「だからその、えっと、できるだけ注目しない感じで、気にしない感じでお願いしたく」
自分がじっくり常葉君を見ておいて自分勝手だとは思うけど、乙女心としてこれはどうしようもない。
そう主張してる癖に常葉君を見る訳にもいかず私は下を見る。駅の汚れたタイルが規則正しく並んでるだけの床。こんなことを言う私を常葉君はどう思っただろう。沈黙が続くと怖くなって、顔があげられない。
視界の向こう、笑ったような気配。
休日の早朝とはいえそれなりに人がいる駅は音が多くて、普段二人きりでいる時のように小さな常葉君の音は届かないから、はっきりとは伝わらないけど。
「わかった。その代わり、弥生さんに一個頼んでいい?」
「私にできることなら」
怒っていない。それだけはわかってほっとしながら返事をした。
「弥生さんを見ないように気をつけるけど、弥生さんは僕の方ちゃんと見て話してね」
それは人と会話するなら、当たり前のこと。
当たり前すぎるその要求に、しかもちょっと苦笑まじりな感じで言われたそれに、頷く以外出来なかった。
「常葉君?」
「あれが何度か話に聞いてた親友なんだ」
「うん。美人でしょ!」
自慢なのと言えば、ちょっと考えた常葉君がふっと笑う。続けて何か言いたそうに見えたけど、待ってもそれ以上は何も言ってこなかった。
その間に私は改めて今日の常葉君を見る。
……うわぁ……。
当たり前なんだけど、常葉君とは学校でしか会ったことがない。
つまり会うときはいつも学校の制服だった訳で、私服の常葉君を見るのはこれが本当に初めてってことになる、んだけど。私服の常葉君ってどんな風だろうなって昨日の夜も考えすぎてちょっと寝不足になってるくらいだけど。
予想以上に、でも予想通りに、常葉君は格好いい。
別に特別変わった服を着てる訳じゃない。高そうな服でもないし、かしこまった服でもない。その辺のファストファッションとかで売ってそうな上下だ。片方の肩に大きく無いリュックを下げてる、服装だけならとても無難なもの。その辺の普通の男の子が普段着ていそうな組み合わせ。
なのに常葉君が着てるだけで格好いいのは、恋による色眼鏡かな。それとも常葉君の顔のせいかな。
雑誌とかで「これが最新トレンド!」とか書かれて出てても鵜呑みにしちゃいそうだ。
普通の服装なのに。
思わずまじまじと常葉君を上から下まで何度も見ていたら、常葉君が私に言う。
「そういえば弥生さんの私服初めてだ」
学校でしか会ってないのは常葉くんの方も同じ。
だから制服姿しか見たことないのも同じで、だからこの瞬間同じことを考えてたのがその言葉でわかった、けれど……。
「あー、う、あのっ」
「どうした?」
「………………あまり見ないで、ください」
いざ自分がそういう風に見られるとわかると、恥ずかしすぎる!
今絶対顔赤い。
もちろん私だって、それこそギリギリまで今日の服は悩んで、直前に智花にもチェックしてもらってオッケー出た物を着て来てる。だから変じゃない、と思う。変だったら智花なら絶対に言うもん。
だから見られておかしい格好じゃないってわかってるけど、そういう問題じゃない。
「見ないと話せないけど?」
「だからその、えっと、できるだけ注目しない感じで、気にしない感じでお願いしたく」
自分がじっくり常葉君を見ておいて自分勝手だとは思うけど、乙女心としてこれはどうしようもない。
そう主張してる癖に常葉君を見る訳にもいかず私は下を見る。駅の汚れたタイルが規則正しく並んでるだけの床。こんなことを言う私を常葉君はどう思っただろう。沈黙が続くと怖くなって、顔があげられない。
視界の向こう、笑ったような気配。
休日の早朝とはいえそれなりに人がいる駅は音が多くて、普段二人きりでいる時のように小さな常葉君の音は届かないから、はっきりとは伝わらないけど。
「わかった。その代わり、弥生さんに一個頼んでいい?」
「私にできることなら」
怒っていない。それだけはわかってほっとしながら返事をした。
「弥生さんを見ないように気をつけるけど、弥生さんは僕の方ちゃんと見て話してね」
それは人と会話するなら、当たり前のこと。
当たり前すぎるその要求に、しかもちょっと苦笑まじりな感じで言われたそれに、頷く以外出来なかった。