恋は準備できない 2

文字数 1,668文字

 駅まで歩いた後、待ち合わせ場所に着く前に智花が「常葉に会いたい」って言った時に、嫌だとは思わなかった。
 大事な親友だからいつかは常葉君に会わせられたらって私も思ってたし、今回は協力もしてもらってるんだからむしろそれ位の希望を叶えるのが当然だとも思った。
 話ではずっと出してたし相談にも乗ってもらってたんだし、会わせたくないって思う理由もない。
 だから待ち合わせ場所まで一緒に行くことにする。常葉君が来てればそこで会えるし、まだ来てなければ一緒に待てば会えるから。
 一緒に歩きながら智花は言い訳のように付け足した。
「すぐ帰るわよ。挨拶だけね」
「別に気にしなくてもいいのに……」
「むしろあんたは気にしなさいよ。好きな男が、こんな美人と会うんだけど」
「だって智花だもん」
 ただの美人だったら私も不安になると思うんだけど、智花だから。仮に常葉君が智花に興味を持ったとして、多分私はそれを仕方ないって思える気がする。学校の他の子よりも納得ができる。智花はそれだけ美人だし、中身だっていい子だとわかってるから。
 そんな私の断言をどう思ったか智花は肩をすくめた。
「まぁね……って、あぁ、あれか」
 話しながら待ち合わせ場所のすぐそばまで来た時、先に気づいたのは常葉君の顔も知らない智花の方だった。
 でも仕方ないだろう。
 常葉君がすごく格好いい人だって事はずーっと言ってるし、待ち合わせ場所の改札前の柱のそばに立ってるそんな男の子なんて一人しかいなかった。常葉君は私より先に来てたみたいだ。
 っていうかむしろ見た目だけで物凄く常葉君は目立ってた。
 通りすがる人が男女問わずに何人もチラチラ見てるくらい、兎に角もう、格好良くて……これじゃ顔を知らなくたってわかるに決まってる。
「なーるほどねーぇ」
「嘘はついてないもん」
「いやぁ想像以上に……あんた面食いよね」
 反論できない。
 智花は私が過去に好きになった人を全員見たことがある。
 それを含めたって顔だけで好きになってる気はないけど、この常葉君を前に顔は関係ないとか説得力なさすぎるよね。
 私は自分がそこまで面食いだとは思ってないけど、そう思われても仕方ないくらい、美人な自分を見慣れてる智花ですらあっさり納得するレベルで常葉君の見た目が凄いのは間違いない。
 ちょっと手前で立ち止まってそんな会話をしてる私たちに、常葉君の方も気づいた。
 スマホを弄っていた常葉君は私を見てちょっと笑い、そして私の隣の智花の方にも気づいてちょっと怪訝な顔をする。それはそうだろう。ここに智花と来ることを結局言ってない(着く前にそういう話をした時、私は先に連絡して言おうとしたけど、その必要はないって智花に止められたから)。
「常葉君、ごめんね、待たせちゃって」
「時間前だから問題ないけど……弥生さん、その人は?」
「あの、前から言ってた親友の智花。今日は智花にちょっと協力してもらってるの……挨拶だけしていきたいって」
 ね、と智花の方を見たけれど、智花は何故か呆れたように「なるほどねぇ」って頷いている。
 失礼ってほどじゃないけど、その視線はじっくりと常葉君を観察していた。
「智花?」
「……あぁごめん。えっと、上崎智花です。はじめまして」
「常葉です。上崎は……よその学校の人、だよね」
「初台なんで」
「あぁ。頭良いんだ」
 学校名だけで常葉君はそう言った。
 智花の通う学校はうちよりずっと難しい超進学校だ。名前を知らない同級生の方が少ないくらいの有名校で、毎年何人も難関大学に合格者を出してるようなトコで、常葉君も名前を聞いてすぐにわかったらしかった。
 ただ二人の話はそこで終わって、困ったように常葉君の視線が私に寄越される。
 それを見て智花が声を立てて笑った。
 智花にしては珍しいその行動に私がびっくりしてる間に、長い髪を流して智花はもうこっちに背中を向けている。
「本当に挨拶だけなんで。じゃ! 恋歌は遅くならないようにね」
「うん、何かあったら連絡する」
 返事をすると、歩き去りながらそれに答えるように智花の片手がヒラっと揺れた。
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