恋、信じます 3

文字数 1,302文字

 この際、騙されるのは仕方ないと思おう。
 本音を言えば騙されたくもないけど、でも悪意で騙すんじゃないのなら、それはきっと常葉君にとっては理由があって、どうしても教えたくなかったり見せたくない部分なんだと思う。そういうのを無理やり暴いて、相手のことを何でも知ってることが、わかりあうことだなんて思えない。
 知らなくていいこと知らないままでいる。
 それも、信頼関係なんだと思うんだ。
 信頼関係が続いてて、騙す必要がなくなったらきっと教えてくれるんだって思う。
 そんな日が来ればいいな。
「騙すのはいいんだ?」
「……いいよ。常葉君を信じる。その代わり、勝手に気づいちゃったりするのは許してよね。私は嘘つくの上手くないから、気づかないふりとか無理だもの」
「普通、騙されるのは嫌なもんじゃないの?」
「何も思ってない相手ならね。でも、常葉君とか智花とか親とか……私が、信じたい人に騙される分には、私が信じてればいいんだけなんだし、きっと私にそんな酷いことしない人しか信じないから、問題ないんだよ」
 きっとそう。

 例えばクリスマスにはサンタさんがやってくるっていうような。
 そのプレゼントを当日まで隠されたりするような。
 そういう風に騙されることを、悪いことだっていう人はいないでしょ。それを嫌だと思わないのと同じ。

 いつかサンタがいないって知っても、そんな嘘をついて騙してた親を嫌だと思ったりなんかしなかった。そうだったんだ、って思うだけだった。
 結局それは、私のためにしてくれてたことだったから。
「昨日初めて話したような相手に、よくそう言えるな」
 呆れたような常葉君の声。
 わかってるのかな?
 そうやって言うから、私は信じられるんだよ。私のことなんて考えずに都合良く騙そうと思ってたら、そんな風には言わないんだよ。騙そうとする人って、騙す相手に逃げ場なんて用意しないよ。
 これは私が恋してるからフィルターがかかってるんじゃなくて、常葉君は、自分で思ってる以上に私に逃げ場をいつも用意してくれてるから信じられるんだよ。
 そこまでするならどうしてすぐ振らないんだろう、とはちょっと思うけど。
 きっとそれだって何か、恋をとる以外の理由がある……んだと思う。
「そういう常葉君だって、昨日初めて話しただけの相手を、すぐ振らないじゃない」
 邪魔でいらないなら振る方が早い。
 利用したいなら適当におだてて都合のいい言葉をかけておいた方が楽だよね。
 でもそのどっちも常葉君はしてないの。
 そういうところがね、なんというか本当、智花みたいだなぁって。智花は一番の親友だけど、私に言わない色んなことを抱えてて、厳しいことだってよく言うし隠し事だってするから。そしていつだって私に逃げ場を用意してくれてる。
 二人とも、自分が悪役で終わるように気をつけてるみたいな印象。
 させないけどね。
 ぜーったい、させないけどね!
「お前のこと、まだよく知らないから」
「他のよく知らない子たちの恋はとってるのに」
「最初からなかったことになるなら、知らなくていいだろ……」
 なんだかなぁ。
 今、常葉君がどういう顔してそんなこと言ってるのか、すごく見たいよ。
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