恋、おもい 1

文字数 1,026文字

 結果として私が何度も取られることになるのを許してる、ということになるんだろうか。
 智花ならまた「馬鹿じゃない?」って言うんだろうなぁ。
 昨日の今日でこんな会話したって知ったら呆れるんだろうなぁ。
 私だって何度も何度も恋心を取られたくはない。今あるものを大事に育てていきたいって思う。
 でも常葉君はそれが何かに必要だって言った。替えがきくのかはわからないけど、それを使わないといけない何かがあるんだろう。だから色んな子から取っている。
 その事情を知ったからって、じゃあ私以外の子たちから取っていけば? なんて……ちょっとは思うけど、それを言ったらきっと私は常葉君を昨日みたいに怒れなくなるんだろう。
 自分のために恋を奪ってる常葉君と、自分のために恋を守ってる私では、やってることは同じになってしまう。
 常葉君から振られるまでは。
 私はこの恋を諦めないって決めた。
「必要なら、私のを奪っていけばいい」
 都合がいい?
 違う。私は。
「でも、その代わり私はずっと、そういう常葉君を怒るし、常葉君のしてることをダメだって、嫌だって、酷いって言うよ」
 彼の前にまっすぐ立てる私でいたいだけ、なんだ。
 もしこの恋が終わっても、その後に胸を張っていられるように。
 そう言うと、常葉君は笑うのをやめた。
 少しの間じっと私を見て、眉をひそめる。
「そこまで言ってたら、そのうち嫌いになるんじゃないのか?」
「ならないよ。好きだもの」
 即答。
「言い切れるんだ?」
「言い切れるよ。だって、好きと嫌いは別のものだよ。裏表じゃないから」
 振られて好きが終わったとしても、嫌いになるわけじゃない。好きが無くなっても、その跡に嫌いとか無関心が入るわけじゃない。それは今までの私の恋が教えてくれてる。
 他の人はどうかわからないけど、私はそう。
 そして、好きな間も、嫌いは入れる。
 親だって、親友だって、好きだけど、嫌いな部分が当たり前にあるものでしょ。
 好きだから何もかも全部肯定できる、嫌なところが何もないなんて、そっちの方がおかしいと思う。全部が自分の思う通りなんて、妄想の中の主人公くらいしかいないんじゃないかな。
 私は、妄想の常葉君を見てるわけじゃない。
 私の理想通りになって欲しいわけじゃない。
 私が好きになったのは、そんなの関係ない常葉君だ。
 だから嫌なところだって見えるけど、それで好きが減ったりなんてしない。だって嫌なところがあっても好きなところが減ってるわけじゃないもの。
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