恋、抱えたままで 2

文字数 937文字

 言うまでもない、腕を掴んでるのは常葉君だ。
 すごく驚いてるけど、それをわかってるので声とか出ることはなかった。
 ドキドキしてるのは、驚かされたせいと、腕を掴まれてるせいの両方だと思う。痛くはないけど、制服の生地越しなのに不思議と熱いような気がした。
 まだ何か用があったのかな?
「常葉君?」
「悪かった。だからそんな顔するな」
 え。
 あの常葉君が謝った……待って私そんなひどい顔してた?
 振り返ろうとした瞬間、腕が離されて後頭部をぽん、と軽く叩かれる。まるでそれが「振り返るな」と言われてるような気がして、私は動けなくなった。何か言おうとしたけれど、すぐに常葉君の声が聞こえてくる。
「校門までなら、離れて歩いてれば問題ないだろ。たまたま同じ方向を歩いてる奴までそういう風に見られることなんてないんだし」
 これはつまり、常葉君なりに気を使ってくれたってことだろうか。そこまでなら、離れて歩くけど一緒に行ってくれるって、そう言ってるんだよ、ね?

 私そんなに暗いのダメに見えたかな、とか。
 それはそれで緊張しそう、とか。

 言われた瞬間色々と頭の中で思ったけど、全部声にはならなかった。
「ほら行け」
 そんな私の背中を、常葉君の手が押し出す。
 先に歩けって事なんだろう。
 後ろから付いてきてくれるんだ……それだと結局私、誰も見えないから一人で歩いてるのと同じなんだけど。でも気を使ってもらったのが嬉しくて、私は素直に歩き出してしまう。
 ここから昇降口、そして校門までは寄り道しない限りは一本道だ。
 確かに、偶然同じように歩くのは不自然じゃないし、私が後ろだったらまるで常葉君のストーカーだけど、常葉君が後ろの状態でストーカーのように思われることなんか絶対ないだろう。私たちが近い場所で歩くのなら、この状態の方が自然だとは思う。
 でも一人で歩いてるのとほぼ変わらないよね、これ。
 仕方ないか、と思ったらスマホが震えた。
 遅くなったから母さんかなぁ、と取り出して確認する。
「っ!!」

 び、びっくりした……っ!
 心臓止まるかと思った!!

 ディスプレイに表示されている、登録したばかりの常葉君の名前に、私は思わずスマホを落とすとこだった。
 後ろから送ってきてるらしい。嬉しいよりも驚きすぎたよ。
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