恋は道連れ 2

文字数 1,690文字

 新幹線は普通の電車と違ってあまり止まる駅がない。
 当たり前なんだけど、それはつまり人の出入りとか車内放送とかそういうのが少ないということで。ワゴンを押してやってくる車内販売もそんなに何度も来る訳じゃないから、周りに人がいなければ、下手なカフェよりも静かに会話ができる場所なんだと今日知った。
 来るときにずっと寝ていられたのも、そういう理由があったんだろう。ずっと静かだったから。
「僕は今までいろんな人の恋情を取ってきたから、それが人それぞれで、いろんな形があるって実際に知ってる」
「取ったものの細かい違いが分かるの?」
「まぁね。仕事で使うまでは僕の中に保存してるから」
 他人の気持ちが自分の中にあるってどういう感じなのか全然わからない。
 テレパシー? とか、さとり? とか、そういう他人の気持ちがわかるのと似た感じなんだろうか?
 こればっかりはどんなに説明されたって、私にはわかりそうもない。ただ、わかってしまう常葉君だからこそ思うこともあるんだろう。
「だからこそ、恋情が時に勘違いだったり、思い込みだったり、あるいはとても移ろいやすい軽さだったりっていうのも知っていて……弥生さんへの僕の今の気持ちが、そういうものじゃないかどうかは、はっきりすべきなんだろうって思ってしまう」
 じゃないと失礼でしょう? と常葉君は言う。
 私は、軽さとか勘違いとかそんなの関係なく、自分がその瞬間に恋と思えばそれが恋でいいと思うのだけど、そういうのは人それぞれだ。常葉君はそういうのを慎重に見極めたい人なんだと思う。いろんな人の恋を知ってるからこそ、なんだろうな。
 だから私はじっと次の言葉を待った。
「弥生さんの気持ちが強いってわかってるから、見合う自分で返事したいのかもしれない」
 ああ、そっか。
 私の恋はもう何度か常葉君取ってるから、わかってるんだよね。
「或いは……自覚するのが怖いのかも。弥生さんは知らないけど、僕はね。好きなものを大事にしすぎるタイプらしいから、本気になったら人によっては重いとか、逆にヨソヨソしいと感じると思うんだよ。でも、そういうのですれ違うって、辛いじゃない?」
 ゆっくりとそう話してくれる。

 常葉君には、過去にそういうすれ違いで辛い経験があったのかな?
 それとも誰かの恋を取った時にそういう辛さを知ったのかな?

 どっちでもいいけど、気持ちの表現とか、気持ちの持ち方の仕方の違いで誤解されてすれ違う、というのが辛いのは、わかる気がする。
 他でもない私自身だって、好きって言葉ですぐ好きになっちゃうけど、その相手と知り合った期間が短かったり普段から関わりが少なかったり(つまり最初告白した時の常葉君のような場合だ)すると、本気で好きだと思ってるのに、勝手に「軽い」「中身がない」と思われる事があった。
 常葉君が私の最初の告白を軽いって思わなかったのは、私の恋が常葉君の中に入ってて軽くない気持ちだって伝わってたからであって、最初の告白の時の状況だと、普通の男子相手だったら、軽いとか単なる憧れとか、本気の気持ちじゃないものだと思われてもおかしくなかったんだよね。
 もちろん私の恋は全部本気だから、そう思われたら悲しいし、それを理由に振られるのも悲しい。
 そういう、捉え方の違いでの気持ちのすれ違いって、辛い。
 だから常葉君の言ってる事はわかる。
 でもそれって、逆に考えたら……。
「じゃあ私には、その心配だけは、杞憂ってやつだよ」
 私にそういう風にとられることを気にしてるなら、だけど。
「私は、常葉君がこの先どういう風だって、好きだもん。嫌な事は嫌っていうけど、そうでない事は別に平気だし。常葉君は私が嫌っていう事はしないから、問題ないんじゃないの?」
 私の方が何か困ったり引いたりみたいな可能性を考えてるんだとしたら、それって無意味だよ。
 だって私だったら、それが常葉君が大事にしてくれてるというんなら、多分どういう事だって構わないと思うもん。嫌ならすぐ言うし、そこで気持ちがすれ違っていく可能性は低いと思う。
 そう伝えたら、握られている手が一度だけぎゅっとなった。
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