恋は返品不可 2

文字数 1,053文字

 店を出て駅に向かう道すがら、常葉君はずっと謝っている。
 あんまりにも常葉君が笑いすぎるんで私の機嫌がちょっと悪くなったのを引きずってるらしい。

 本当はもうそんなに気にしてないんだけど、なんとなく私は許すタイミングが掴めずにいる。

 だって常葉君、謝ってはいるけど、なんで笑ったかはどうしても言えないって言うんだもん。
 こっちは、そんな変なとこあったんなら教えて欲しいのに。
 駅に入った辺りで、私たちみたいに帰る人たちが周囲に増えた。でも大きな駅なので入ってすぐ改札ってわけでもない。天井には改札への案内の看板が下がっているけど、入るべき改札の位置とか乗るべき方向とか、そういうの覚えてないのでなんとなく歩くのが遅くなった私は、常葉君を見る。
 来るときに使った切符とほぼ同じ見た目のものを取り出していた常葉君は、私の視線に気づくとそれを渡そうとして……また仕舞ってしまう。
「常葉君?」
「あの、弥生さん。一つ確認があるんですが」
「なに?」
「まだ怒ってる?」
 そう訊いてきたときの顔があんまりに情けなかったので……私の方がバカバカしくなってしまった。
 すごい不安そうなんだもの。
 それに、そもそも今日は常葉君のためのお出かけだったのだ。そんな顔のままで終わらせたいんじゃない。私は今日、常葉君を困らせにきたんじゃない。多少常葉君が失礼なことをしたって、それは悪いことかもしれないけど、常葉君が本当に楽しくて笑ってたんならそれでいいじゃない。

 あーでも。
 ただ普通にいいよっていうのも、なぁ。

 そう思いつつどういう風に話そうか迷ってた私に、おみやげ物屋さんが見えた。地方の大きな駅の中にはどこにでもあるような、旅行しにきた人を対象にした広めの店構えをしているそれを見て、思い出したのは「結局今日自分がお金を使ってない」という事実。
「ねぇ常葉君」
「うん」
「時間、まだある?」
「あぁ、少しなら……この駅の中見て回るくらいの時間くらいならあるけど」
 その答えに安心して、私はおみやげ物屋さんを指差した。
「じゃあ、お土産が買いたいので買い物付き合ってくれれば、怒るのやめる」
「いいよ、じゃあ」
「ただし!」
 なんかこのままだとここまでのようになし崩しに常葉君に支払いされそうなので、私はどうしてもこれだけは言わないといけなかった。
「私は自分で買いたいので! もし常葉君が少しでもお金出そうとしたら、やっぱり怒るのやめないからね」
 それを伝えると、一瞬びっくりしたような顔をした常葉君だったけど、すぐ苦笑して「了解」と頷いた。
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