恋は言い辛い 2

文字数 1,131文字

 全部話した後、最初に智花がしたことはため息をつくことだった。
 電話の向こうで大きなため息をついた後、呆れたような声が届く。
「あんたねぇ」
「うん」
「どこ行くかもわからないままホイホイついて行くとか、危機感なさすぎじゃない?」
 言い方はきついけど、智花なりにすごく心配だって言われてるのだけは分かるから、腹は立たなかった。むしろちょっと申し訳ないとすら思う。でも、そう言われても私の中には不思議なくらい危機感は無い。
 浮かれてる、のはあると思う。
 でもそれだけじゃなくて……常葉君ならきっとそういう怖いことはないだろうなっていう妙な確信があった。
 なんていうか、なにかあるとしてもきっと常葉君なら、逃げ場を用意してくれてるから、大丈夫だって思う。
「常葉君だからそういう心配はないと思うよ」
「あんたの常葉へのその謎の信用はどっから湧き出てんのよ」
「うーん……智花も、常葉君と会って話をしてみたら多分分かると思うけど」
 こればっかりは、本人と直接会うのが一番わかりやすいんじゃないかな。私がいくら言ったとしても、どうしても伝わり切らない部分だと思う。
 常葉君は、意地悪なとこもあるし変なとこもあるけど、そういう人じゃない。
 むしろ、ものすごく慎重なほうなんじゃないかって思ってる。
「私達くらいの年頃の男子がそういうこと考えてない訳が無いのよ?」
 呆れたように続ける智花。
 いつでもどこに行っても男の子にモテる智花が言う言葉だから、ものすごく説得力がある。きっと普通はそうなんだろうし、智花はそういう経験をしてきているんだろう。私だってこれが常葉君じゃなければそういう心配を絶対持つと思う。どこかもわからないままで出かける約束なんて、絶対出来ない。
 だから智花の心配は正しい。
 但し、常葉君が相手の場合は……的外れだ。
「大丈夫だって」
「はぁ……」
 ここまでだって、そういう怖いことが起こる可能性がある状況なら何度もあったと思う。
 放課後、誰もこない部屋で二人きりだなんてまさにそれだし。

 だけどそんな状況で常葉君は一度も私が、そういう意味で不安になるような事だけはしなかった。
 多分、常葉君自身も気をつけて振舞ってた。
 そしてなにより、いつも常葉君は逃げ場を用意してくれていた。
 常葉君の方からは、いつだって私が逃げられるようにずっと扉を開けてる状態だ。

 きっと今だって、私がすぐにでもやめたいって言えば、何の関係もない状態に戻ってしまう。常葉君は引き留めたりしない。
 それがちょっとやだなんて、恋してる私のワガママなんだろうな。
「あんたがそこまで言うならまぁいいわ」
 全く譲らない私に、智花は諦めたように言った。
 電話の向こうの親友は、きっと呆れた顔をしてるんだろう。
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