恋、慣れません 3

文字数 864文字

 そういえば、と私は常葉君を見る。
「もしかして私を待ってた……?」
 放課後の教室で一人。他に何か用があったようにも見えない。
 でもまさか私を待ってたなんて、そんな。
「そうだけど」
「!」
 あぁまた心臓が激しく動いてます。これドキドキしすぎて壊れないかな? ううん、もう壊れてないかな?
 死因:恋
 とかあり得るんじゃないかって今なら思える。
「い、言ってくれれば急いだのに」
 のんびり廊下を歩いてくることもなければ、教室入ってすぐ逃げようとすることもなかったのに。
 そう言えば、常葉君はちょっと考えて、笑った。あ、これ知ってる。ちょっと性格良くない方の笑い方! でも元が格好いいので似合ってるけど!
「言ってよかったのか?」
「う、うん?」
 何を言いたいんだろ?
「ここまでのどっかで、お前に声をかけてよかったのか? どこで声かけても周りに誰かいたと思うけど?」
「あ、だ、ダメっ!」
 あー! そういうことかーっ!! それはダメーっ!
 普段接点なんか何もない私が常葉君に声をかけられるとか、誰が見たって興味持っちゃうよ噂になっちゃうよ広まったら質問攻めにされるよ! 何もないよ、とか言っても納得されないし、本当のことなんて余計に言えないよ。
 そっか、常葉君は私のこと一応考えてくれてたんだ……。
「で? どうなの?」
 笑ったままの顔で常葉君が訊いてくる。
 ここで何が、なんて言う程私も迂闊じゃないです。
 っていうかよく智花にこんな風に聞かれるのでむしろ慣れてます。
「ご、ごめんなさい。ありがとう」
「素直でよろしい」
 誤ってお礼を言うと、そう返事をしながら常葉君がまた笑う。
 今度は普通の、ちょっと目元が優しくなる感じの笑顔で。
 あぁもうだから心臓がうるさい。こっちは恋をしてるんだよ。笑った顔だけでも胸が痛くなっちゃうんだけど。でも笑うななんて言えない思ってない。こんな風に会話できるのが嬉しくて仕方ない。
 恋ってこんなに大変なものだったっけ。
 数年ぶり、という以前に、恋してる相手とこんなに長く時間を過ごしたことなんてないから、わからないよ。
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