恋、慣れません 2

文字数 850文字

「そういう常葉君はどうなの?」
 なんとなく話の流れで訊いて、すぐにハッとなる。
 常葉君の家の話は、彼の学校での知名度に反してあまり知られてない。もちろん私も知らない。だからこそ訊いてしまったんだけど、もしかしてこれは踏み込み過ぎたかもしれない。
 そんな気まずさをさらに確定させるみたいに、常葉君は苦笑する。
「血が繋がった親はもういない」
「ご、ごめん」
「別に。そもそも親の質問を最初にしたのは僕の方だろ」
 そうだけど。
 それはそれとして、やっぱり悪いなーって思うじゃない。
 常葉君には秘密が多いって言われてるし、家庭環境もその一個だけど、それはただ単に知られてないってだけじゃなくて常葉君自身があまり言いたくないことだったんじゃないかって。親がいる私じゃ、想像するくらいしかできないけど。
「でも、ごめんね」
 有名な割に知られてないって時点で気づけたと思うと、やっぱり申し訳ない気がしてしまう。
 そして少しだけ沈黙。
「……まぁ、どうしても謝るってんなら、ちょっとお願いがあるけど」
「何?」
 常葉君の言葉に顔を上げると。
「この後、ちょっと時間ある?」
「ある、けど」
「じゃあちょっと付き合って」
 ドキ。
 心臓がちょっと大きく動いた。
 も、もちろんわかってるよ、そういう意味じゃない、どころか深い意味もないって!
 でもわかっててもどうにもならないのが恋の難しさ。油断すると呼吸すらおかしくなってしまいそうで、くらくらする。
「無理? 時間ない?」
 すぐに返事のない私に、首を傾げて常葉君が訊いてくる。
「だ、大丈夫! でも、その、あんまり人目につくような所は、あの」
 昨日も今も偶然人がいないからいいけど、誰かにこんなところ見られたらどんな噂が立つかわからない。
 まぁ私じゃ、噂にすらならないかもしれないけど……。
「ふぅん? それは構わないけど」
 常葉君だって変な噂になったら困るんじゃないかなぁ? とは、思ったものの言えなかった。
 だって私と変な噂になるかもしれない、なんて言うこと自体自意識過剰っぽいんだもの。
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