恋は切なく難しい 3

文字数 1,093文字

 怒ってるのかな。
 そうだよね。せっかくのお出かけで、しかも元々常葉君の為のお出かけなのに、不愉快にさせるようなことしたら、怒って当然だよね。そんなつもりなかった、とか気づかなかった、なんて言い訳だ。
 でも何を言っていいのかわからない。
 言葉が全然見つからなくて、常葉君の顔も見られなくなって、足元を見る。
 まだ花が散る時期じゃないからだろう、花は何処にもない。
 そこには地面しかない。
 しばらく、長いような短いような沈黙の後で、常葉君が深々とため息をついた。その音にすら責められてる気がして、顔が上げられない。
 腕も、離した方がいいのかもしれない……と、離した手が、常葉君に掴まれる。痛くないけど、手首がギュッと握られていた。
「ごめん。追い詰めた」
 常葉君は悪くない、と首を振ったけれど、声が出ない。
 なんて言えばいいのかわからなくて言葉が見つからなくて、かといってその場しのぎに何か言うのももう無理だって思うと、余計に何も言えなくなっていた。
「弥生さんは悪くない。多分、僕が何か無神経なことしたんだと思うから、ごめん」
 違うのに。
 そうじゃないっていう一言が出てこない。
「今更だけど、女の子の扱いとか全然わかってない人間だから、嫌なことがあったら抱え込むより前に言ってね」
 気づけないと思うし、と言う小さい声が、すごく近くから聞こえる。ほとんど抱き込まれてるくらいに近くにいて、息がかかるくらいそばにいるからだ。
 体温すら感じられそうな距離だから、騒がしいこんな場所でも声が聞こえてる。
「すごい勝手なことを言うけど……」

「弥生さんに嫌われたくないんだよ」

 …………?
 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 私に嫌われる? 誰が? 常葉君が?
「本当、今更過ぎるんだけど」
 イマイチ常葉君が何をもって今更と言っているのかすら分からないのだけど。これは私の頭が悪いせいなのかな。
「常葉君」
「うん」
「人に嫌われたくないって普通のことだし、それ以前に私、常葉君のこと好きなのに、なんで嫌われるとか思うの?」
 普通の友人とかならまだしも、私、常葉君に好きって伝えてるよね?
 それでなんでそう思うのかがよくわからないんだけど。
 なんかもう、よくわかんなさすぎてさっきまでの感情がどっかいって、今は頭の中「?」でいっぱいになった私が顔を上げると、思ってたより近くに常葉君の顔があって「ひゃっ」と変な声が出た。
 思わず距離を取ろうとした体が、後ろに行かなかったのは背中に何か当たったからだ。
「      」
 なにがなんだかわからなくて混乱してたから、その時常葉君が何を言ったかは聞き取れなかった。
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