恋と合わせ鏡 3

文字数 938文字

 手が離れると、少し寂しく感じた。
 目を開けるとまだ目の前にいる常葉君が困った顔をしている。どうしたんだろう。
「僕には、弥生がよく分からない」
 常葉君は言う。
「この前取ったばっかりなのに、また取られるってわかってるのに、なんでこんな風に恋ができるんだ?」
「こんな風って?」
「恋情にも人それぞれあるけど、お前のは……良くも悪くも素直っていうか。状況を考えれば、もっと僕に対して後悔したり複雑な感情になっててもおかしくないのに、真っ直ぐなままっていうか」
 常葉君には取った恋の何かがわかるんだろうか。
 私にはわからないけど、確かに、恋は人それぞれあると思う。漫画とか見てるとドロドロした恋とかあるし、現実にはどうかってわからないけど、きっとすごく辛い恋とかあるんだろう。いろんな人の恋を取ってきた常葉君だから、そういうのも知っているのかもしれない。

 ただ……ね。
 それに関しては、私にも言い分があるよ?

「そんなの、常葉君のせいでしょ」
「え?」
「常葉君が、私が素直に好きだなーって思わせるようなことばっかりするからでしょ。今日だって、この前よりもしっくり好きって言えたのは常葉君のせいだよ」
 あなたが酷い人なら、私の恋もきっとそうなってたんだと思うよ。
 本気で利用するためだけに私に好きって言わせようとするような人だったら、私だって「なんでこんな人好きになっちゃったんだろ」とか思ったかもしれないよ。好きって言うのが辛かったかもしれないよ。つまり、ここまで私にそういう恋をさせてるのは、常葉君自身のせいが大きいんだよ。
 だから、そんな顔でわからないって言われるのは心外です。

 そう思いながら言ったら、常葉君は背中を向けて離れてしまった。
 私はもう言いたいことを言ったし、常葉君が何か言うかなと思って待ってみたけど、何も言ってくれない。
 微妙な沈黙が続く部屋の中は、前のようにまたゆっくりと暗くなっていく。このままだとまた真っ暗な廊下を歩かなきゃいけなくなる。そういえば母さんにあまり遅くならないように言われたっけ。
 どうしよう、と思ったらスマホが震えた。
 常葉君から。
 目の前にいるのに何だろうか?


「ちょっと破壊力がありすぎです弥生さん」


 …………ちょっと意味がわかりません常葉君。
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