恋はそれぞれに 1

文字数 1,305文字

 帰りの新幹線は、さすがに私も眠くなくて。
 行きと同じように並んで座った後、行きの時ほど緊張はしなかったけど、やっぱりいい話題とかは出てこなくて私は困ってしまう。
 常葉君の方は、さっきのコップを入れたリュックを、足元に置いてた行きとは違って、膝の上に乗せていた。

 また、長い車内放送が流れて新幹線が走り出す。

 放送が終わった後、「あのさ」と常葉君は喋り出した。
「こんなこと言うと弥生さんには引かれそうなんだけど」
 このままずーっと沈黙が続いたらどうしようと思ってたので、常葉君が喋ってくれただけで内心「助かったー」と思ってた私は、返事が遅れてしまった。
「え? なに、なにを?」
「僕は昔から、女子に何か貰う機会って結構あって。その度に正直面倒くさいと思ってました」
 見返りを求められてるみたいで、と常葉君が言う。

 その言葉に引くより前、私は昔似たような事を言っていた親友の言葉を思い出していた。
 そしてなんかすごく納得していた。
 あー確かに常葉君みたいな人って智花みたいにそういう機会が多かったんだろうなー、しかも女子はそういうプレゼント好きな子結構いるし、好きな相手の気を引きたくてって小さい頃からよくあるあれだよね、と思って。
 智花ですら男の子から貰ってたんだし、まして相手が女の子になる常葉君が、貰ってないわけがない。
 
 ってそこまで考えて。

 いや待って私もさっき同じことしたじゃん、と。
 しかも微妙に断りづらい感じで渡してしまった、と。

 ここまで考えて、さぁっと全身の血の気が引いたような気がした……けれど。
「最後まで聞いてね」
 常葉君の言葉に、悪い思考は一旦止める。
「僕が間違ってた。面倒臭いのは『どうでもいい相手から物を貰うこと』だったんだな」
 そう言われれば、また、あぁって納得できる。

 私だってよく知らない相手から物を貰えば戸惑うだろう。
 仮に誕生日プレゼントだったとしても、そんなに知りもしない相手から渡されれば正直困るし、逆に智花とかなら困らないで普通に喜べる。どんなものでももらえたら嬉しいと思う。
 常葉君が言っているのは多分そういう意味だろう。

 でもそれだと……やっぱり私は。
 また悪い思考が動こうとした時、常葉君の声に全部砕かれた。
「弥生さんから何か貰ったら、面倒とか思わなかった。むしろ貰いっぱなしで良いのかなと思ったよ」
 そう言われるとすごい焦るの、なんでだろ。
 わーってなった瞬間、もう喋っていた。
「や、あの、だって今日は常葉君に全部出して貰ってるし、そんな高い物じゃないんだし、そんなの気にしないで」
 むしろ私の方が今日の費用とかすごい気になってるんだし!
 切符代に比べればあのコップなんて本当に微々たるもので、だからそれのお返しなんて用意されたらそれこそ私の方が困ってしまう。

 本気で心配になってそう言った私に、膝の上のリュックを撫でつつ常葉君が笑う。
「でもそれ以上に、すごく嬉しくてね。あー成る程だから誰かに何かあげたいって思えるのかって、思い出した」

 思い出した?

 その言い回しを不思議に思ったけど、きけなかった。
 なんとなくそれは今きいちゃいけないことのような気がした。
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