恋の駆け引き 3

文字数 1,254文字

 いきなり突き飛ばされた常葉君が、それでも尻餅なんてつかず、ちょっと驚いた顔だけで片手でバランスをとってる中、私は立ち上がる。
 今の私の心の中に恋はない。
 あるのは怒りだ。
 何かよくわからないまま、それでも「恋を消されたっぽい」ということだけ把握して、生まれた純粋な怒りのまま私は彼を見下ろして叫ぶ。
「ふざけないでっ!!」
「え? でも、君はもう別に僕のこと好きじゃないでしょ」
 怒る私を目の前にしてもまだ笑顔が消えない彼。
 でもそう言うってことは、何かしたって暗に認めてるのと一緒でしょう!
 この人は、そうやってさっきの子からも「恋」を消して、何もなかったことにして。
 ちゃんと振ることもなく終わらせたんだ!
 それは一つの、一番誰も傷つかない方法かもしれない。
 だって恋をしてない、好きでもない相手に、付き合って欲しいなんていきなり思う子はほとんどいない。まして告白までするくらいなら、そういう気持ちがある相手じゃないとときめかないから、頑張るんだと思う。だからこそ、何も思ってない相手に求めたりしないし、「結果として付き合わないことになる」としても傷つかない。
 私だって、「今の私が常葉君に断られた」としても、絶対何も思わない。
 それがわかるくらい、私の中に彼への感情は何もない。
 確かにこれは誰も困らないと思う。
 でもっ!
 そういうことじゃない!!
「私の、気持ちは、私のものよ!」
 きちんと振られるなら、私は泣くけど、落ち込むけど、智花にも迷惑かけるけど、自分でちゃんと終わらせられる。
 それを、勝手に消して「無かったこと」にされるのは違う!
 うまく言えないけど絶対違う!
 例え振られるのは確定してたって、そういう風に楽になりたい訳じゃない。苦しむのだって私の権利だから。
 常葉君にだって、奪わせない!
「弥生さん?」
「私は!」
 だから叫ぶ。
「常葉君が好き!」
「…………は……?」
 言ってやった。
 言ってやったわ。
 見上げてる彼には、何が起こってるかわかってない。知ったことじゃない。
 私だって彼の冷たい手が触った時に何が起こってたのか知らないんだから、これでおあいこだ。
 その言葉を言った瞬間、私の中に恋が生まれる。同じ相手に二度目なんて初めてだけど、行けそうな気がしてたから不思議はなかった。今回は正しく振られてないからこそ、また生まれることが出来たんだろう。
 といっても、さっき消されたものとはきっと違うだろう。怒りは消えてない。それでも確かに、彼が好きだと思う気持ちが現れる。
 私の恋心は、好きと言ったら出てくるし、相手にちゃんと振られない限りは終わらない。
「何、言って……いや、思い込まなくても、別に誰も君が好きでなくなったとしても責めないから……」
「関係ないっ。それに、思い込みでもないっ! 私の好きは、ちゃんと今生まれてる!」
 悔しさに涙が滲んでくる。
 誰かをこんなに腹立たしく思うのは初めてなのに、それでも私は彼が好きだ……恋してる。
 こんな不条理な感情が成立するなんて、知りたくなかった。
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