恋は行き先不明 1
文字数 1,327文字
改札で自分のカードをかざそうとしたら、それを止められて切符らしきものを渡された。
「使い方、わかる?」
「わかるけど……そんな、用意してくれなくても、自分の分くらい払うのに」
この切符いくらだろう?
交通費は後で払わないと、と思いつつそう言えば常葉君は困ったように笑う。
「いや、それはちょっと難しいかもなので。今日は僕が急に言い出した事だし僕が持つよ。払うなら次回からお願いできる?」
「……うん……」
それはちょっと、と抵抗するよりも前、常葉君の口から「次回」って出た事で私の思考は止まった。
次回、次、今日が終わった先。
常葉君にとっては次があるんだろうか? 今日が終わってもそう思ってもらえるだろうか? わからないけど、そうだと良いなと思う。これが最初で最後、なんてよりその方がいい。でもなんでだろう、私はその言葉になんとも言えない不安のようなものを感じている。
はっきりしなくて、よくわからないけど、私にとってはその言葉が……怖い、みたいな気持ちになる。
なんとも言えず切符を握りしめた私は、その行き先を確認することも忘れていた。
「じゃあ行こう。時間もあまりないし」
磁気式の紙のそれを改札に通して中に入って、常葉君が歩く方へとついて行く。結局今日どこに向かうかなんて聞いてない。ただ見失わないようにと、一生懸命背中を見て歩いた。
入った駅から乗った電車はそれほどでもないけれど、乗り換えた先では休みなのにそれなりに人が乗っている。
座れるほど空いてないから二人で扉の近くに立った。
「晴れてよかったね」
がたごとと揺れながら走る電車の外は、春のぼやっとした青空。
なんとなく会話の糸口を探してたから丁度いいと思ってそう言えば、扉の方に立っている常葉君はまた苦笑いした。
「うーん……まぁ、向こうも晴れてるらしいし」
「向こう?」
微妙な顔をしている常葉君は、きいた私をちょっとだけ困ったように見たけれど、すぐ諦めたような顔をして息をついた。そして私が無くさないようにずっと握ってる切符を指差す。
「行き先。まぁ、ここまで何も言わなかった僕も悪いし……断るなら今だよ。断っても怒ったりしないから」
「? 断るとか何言って」
そんなのある筈ないのに、って思いつつ私は切符を見て。
見たけど、わからなかった。
だって元から私、地名とか詳しくないし。
住んでるあたりの地名ならわかるんだけど、ちょっと離れたらもう、有名な場所だってわからないことが多い。小学校で習う県庁所在地とかだって全部答えられたことは一度もない。智花には「地理とかボロボロじゃん」って笑われるくらい、地名には詳しくない。
だからそれがどこなのかなんて、見ただけじゃ全然わからない。
「これどこ……?」
言いながら切符を見ていた私は、端に書かれた金額にぎょっとする。
運賃、の筈だけど……高い。
自分でこんな額買ったことないくらい高い。
こんな運賃かかる場所あるんだ、って感心しちゃうくらい高い。
言葉を止めた後、微妙な顔をしてしまった私に、常葉君が問いかけてくる。
「弥生さんは地名に弱いんだ?」
「そうだけど……もしかしてこれ、すごく遠いの?」
「そうです」
だから、と申し訳なさそうに常葉君が言った。
「使い方、わかる?」
「わかるけど……そんな、用意してくれなくても、自分の分くらい払うのに」
この切符いくらだろう?
交通費は後で払わないと、と思いつつそう言えば常葉君は困ったように笑う。
「いや、それはちょっと難しいかもなので。今日は僕が急に言い出した事だし僕が持つよ。払うなら次回からお願いできる?」
「……うん……」
それはちょっと、と抵抗するよりも前、常葉君の口から「次回」って出た事で私の思考は止まった。
次回、次、今日が終わった先。
常葉君にとっては次があるんだろうか? 今日が終わってもそう思ってもらえるだろうか? わからないけど、そうだと良いなと思う。これが最初で最後、なんてよりその方がいい。でもなんでだろう、私はその言葉になんとも言えない不安のようなものを感じている。
はっきりしなくて、よくわからないけど、私にとってはその言葉が……怖い、みたいな気持ちになる。
なんとも言えず切符を握りしめた私は、その行き先を確認することも忘れていた。
「じゃあ行こう。時間もあまりないし」
磁気式の紙のそれを改札に通して中に入って、常葉君が歩く方へとついて行く。結局今日どこに向かうかなんて聞いてない。ただ見失わないようにと、一生懸命背中を見て歩いた。
入った駅から乗った電車はそれほどでもないけれど、乗り換えた先では休みなのにそれなりに人が乗っている。
座れるほど空いてないから二人で扉の近くに立った。
「晴れてよかったね」
がたごとと揺れながら走る電車の外は、春のぼやっとした青空。
なんとなく会話の糸口を探してたから丁度いいと思ってそう言えば、扉の方に立っている常葉君はまた苦笑いした。
「うーん……まぁ、向こうも晴れてるらしいし」
「向こう?」
微妙な顔をしている常葉君は、きいた私をちょっとだけ困ったように見たけれど、すぐ諦めたような顔をして息をついた。そして私が無くさないようにずっと握ってる切符を指差す。
「行き先。まぁ、ここまで何も言わなかった僕も悪いし……断るなら今だよ。断っても怒ったりしないから」
「? 断るとか何言って」
そんなのある筈ないのに、って思いつつ私は切符を見て。
見たけど、わからなかった。
だって元から私、地名とか詳しくないし。
住んでるあたりの地名ならわかるんだけど、ちょっと離れたらもう、有名な場所だってわからないことが多い。小学校で習う県庁所在地とかだって全部答えられたことは一度もない。智花には「地理とかボロボロじゃん」って笑われるくらい、地名には詳しくない。
だからそれがどこなのかなんて、見ただけじゃ全然わからない。
「これどこ……?」
言いながら切符を見ていた私は、端に書かれた金額にぎょっとする。
運賃、の筈だけど……高い。
自分でこんな額買ったことないくらい高い。
こんな運賃かかる場所あるんだ、って感心しちゃうくらい高い。
言葉を止めた後、微妙な顔をしてしまった私に、常葉君が問いかけてくる。
「弥生さんは地名に弱いんだ?」
「そうだけど……もしかしてこれ、すごく遠いの?」
「そうです」
だから、と申し訳なさそうに常葉君が言った。