恋、慣れません 1

文字数 1,063文字

 何か機嫌が悪そうな常葉君と、今日も放課後の教室で二人きりになりました。
 えっと、何かしたっけ?
 今日は接点すらなかったと思うけど。
 恋してるだけだよね? それ自体は常葉君だってもうわかってるよね?
 もしかして後から考えたらやっぱり嫌だったとか? あ、じゃあこれから私振られるのかな? あー、やっぱりそうなのかな? 仕方ないけど、うん……やっぱりちょっと悲しいなぁ。
 そう思うと、顔を見ていられなくて俯いてしまう。
 何か言い出すことも出来なくて黙っていると、頭がトントン、と軽く突かれているような感じ。反射的に顔を上げると、指先をこちらに伸ばしていた常葉君と目が合った。
「常葉君?」
「いや、これどうなってんのかなって思って」
 これ、と言って見てるのは編み込み部分で。トントンしてたのは、指先でそこを触ったかららしい。
 頭をぽんぽんするっていうのは漫画とかで見るけど、指先って……いや、いいんだけどね。常葉君に触られる分には、びっくりするけど嫌じゃないよ。
 それに。
 その気持ちはちょっとわかる。
 昔、私も智花が編み込みしてた時に似たようなことしちゃったことがあるから。そうそう、それで編み込みいいなーってなって、父さんにやってーってお願いしたんだよね。
 自分じゃ出来ないから、これ一体どうなってるんだろうって余計に思うんだよ。
 普通の三つ編みとも違うし、あちこちから引っ張ってきて?なんかすごい複雑なことになってるなーって。父さんは「慣れればどうにかなる」って言ってたけど、私は未だに自分じゃ出来ないよ。
「不思議だよね、わかる」
「自分でやってても不思議なのか?」
「違うよ、これは親がノリでやっただけで……私は出来ないの」
「へぇ? いつも親にやってもらってんの?」
「今日は時間がなくてっ、普段は自分でやってるんだけど、今日はたまたま」
 いつもいつも親に髪を整えてもらってるとか、そんな親離れしてない子に思われるのは不本意過ぎる。そりゃ普段はこんな凝った髪型しないけど。
 や、この歳になったら、時間がないからって親にやってもらうことだって普通じゃないのかもしれないけどね。
「お前は親と仲いいのか?」
 だからだろう、常葉君はそう訊いてきた。
「うーん、まぁ、普通に」
 一応私も反抗期のようなものはやったんだけど、あの親には意味ないなーってすぐ虚しくなってやめちゃった。
 のれんにうでおし? ぬかにくぎ? 本当、そんな感じだもの。
 それなのに今でも「恋歌の反抗期はまだかなぁ」とか本気で言ってるんだから。
 鈍い親っていうのも問題だよね。
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