恋の大安売り 1

文字数 1,210文字

 協力。
 常葉君はそう言った。
 確かに、気持ちを消されたあの子との会話でも、私との会話でも、その言葉は言ってた。協力した後に同じ気持ちだったら、だっけ。
「だからそれは、常葉君が『勝手に消すことに』協力する、ってことじゃないの?」
 そう思ってたんだけど。
 物言いたげな、でも言葉が見つからないって顔をして常葉君は否定する。
「そうじゃない。あれは結果として『恋情を奪ってる』んであって、協力は別」
「れんじょう」
「恋心。お前が好きって言葉一つで作ってるその気持ちだよ」
 聞き慣れない単語を思わず繰り返した私に、常葉君は説明してくれる。
 思考はまだうまく回らない、けど。
 私は一生懸命考える。
「それは、じゃあ、常葉君はああするのに何か理由があって、恋心をとることで何か、なかったことになる以外で、常葉君の為になる何かになってる、っていうこと……?」
「そういうこと」
「……とった恋心を、何かに使ってるって、こと?」
「そういうこと」
 肯定された瞬間、また私の頭に血が昇った。
「さ、最低!!!!」
 思わず叫んでしまってる。
 恋をすると私の感情は不安定になるのは知ってたけど、今もそれは変わらないらしい。
 でもこれは常葉君が悪い! 私の、私たちの恋を、勝手に取って、自分のための何かに使ってるとか、最低以外なんて言えるの!? 私が常葉君が好きでも、さすがにそれは怒るよ! そもそも私も一度取られてるわけだし!!
「そんなの最低だよっ! 何してるのか知らないけどっ、何してたとしてもっ」
 憤りで言葉がうまく出ない私に、常葉君の方はどこか冷めた目をしていた。
 その冷め方が腹立たしくて、悔しくて、私は彼を睨む。
 どういう理由があったって私たちの恋をとっていい理由にはならないと思う!
 のに。
「……それで誰かの命を救ってたとしても?」
「え?」
 目と同じくらい、冷たい声が、私に叩きつけられた。
 その冷たさにビクッと体が震えて、怒りが止まってしまうほどに。
「命を救う、のはちょっと違うけど。誰かを、助けてるとしても?」
 どういう意味。
 常葉君は、取った恋で、誰かを助けてて。だから、それは仕方ないんだって、そう言ってるの?
「恋なんて、別に持ってなくても生きていける感情だろ。実際恋してなくても楽しく生きてる人間はいくらでもいる。人生の中で一度も恋せず終わる人間だっている。人が持つ感情の中で、あってもなくても大きな支障がないものの一つじゃないか」
 それは。
 否定、できない。
 私だって、今日常葉君を好きになるまで、前の恋が終わってから今日まで、不自由なく生きてきた。恋がなかったけど困ってなかった。智花だってきっとそうだ。他の感情と違って、恋は、知らないまま終わる人もいっぱいいるだろうって思う。
 だから常葉君の言ってることも、わかる。
 でも。
 でも違うよ、常葉君。
「……あってもなくてもいいのと、勝手にとっていいのは、別だよ」
 全然違うよ……。
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