恋は途中下車しない 2

文字数 856文字

 新幹線が動き出す。
 思ったよりも静かな車内。
 体にじわじわとかかる重さと、窓の外の景色が、動いていることを教えてくれる。

 でもそんな全部よりも、私はただ隣が気になって、緊張していた。
 今すごい変な顔してるかもしれない。緊張で。
 このままどこまでこの状態なんだろう。
「常葉君、あの」
「ん?」
 何か確認しているらしくスマホを弄っていた常葉君が視線を私に向ける。
 並んで座席に座ってるからいつもより近い、いつもよりちょっと低い位置にある顔。視線が合ってまたどきっとして思わず目をそらしたくなったけど、ぐっと我慢した。
 だって駅に入る前に約束したし。
 私は、常葉君の方を見て、話さないと。
「新幹線、どれくらい、乗るの?」
「3時間くらい。その後また乗り換えてちょっと行けば到着」
「3時間……」
 映画よりもずっと長い時間だ。
 3時間も、こんな側に座って、しかも映画みたいに見るようなものもない状態、なんだ……。

 それは思ってたより大変かもしれない。
 そんなに長い時間、私、常葉君と一緒にいて大丈夫かな。
 変なことして呆れられたりしないかな。
 そもそもその間何をしてればいいの?

 頭の中であれこれ考えてしまったのが顔に出たのかもしれない。
 常葉君はちょっと笑った。
「やっぱり長いよね」
「う、うん、それはいいんだけど……」
 3時間もこんなすごい近くに座って、私何してればいいんでしょうか。
 なんて思ったのが伝わったっぽく、一瞬の沈黙の後で常葉君が私を見たまま首を傾げる。
「困ってる?」
「……だって、そんなに時間いっぱいあって、何すればいいのか」
「間が持たないって?」
「そりゃあ……私、そんな会話面白くないし。常葉君は、大丈夫? 嫌じゃない?」
 不安をうまく表現できないまま問いかければ、常葉君は呆れたような顔をした。
「何言ってんの。今日の予定立てたの僕なんだけど。嫌な人と数時間も隣に座る趣味はないよ」
「そうだよね。ごめん」
「でもまぁ、言いたいことはわかった」
 常葉君がそう言ったところで、車内放送が流れてきて会話が止まった。
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