恋は行き先不明 3
文字数 1,592文字
電車がつくまでの間にスマホで切符に書いてあった地名を調べようとしたら、常葉君に止められた。
折角だから知らないままできてほしいって言われれば断る理由もないから、私は素直に従う。
駅に着いてから、かなり歩いて新幹線の改札の前まで移動して、そこで初めて新幹線の切符を貰った。細長いそれを受け取って、改札を通る時に入れ方がよくわからなくてちょっとだけ手間取ってしまった。
だって新幹線なんてそんなに乗らないんだもの。
前どう乗ったのかなんて忘れちゃうくらいには乗らないもの。
そんな感じで中に入ったら、普通の電車の駅とは違う雰囲気で、あぁこれから新幹線に乗るんだって実感する。
「乗るやつが来るまでにまだちょっと時間あるけど、何か買う?」
「なにかって?」
「飲み物とか食べ物。着いてからも食べる場所あるからお腹いっぱいにする必要はないけど、結構乗ってる時間長いから。新幹線の中でも色々売ってるし無理にここで買うこともないんだけど……車内販売はちょっと高いんだよね」
駅のコンビニを指差しながら常葉君が言う。
確かに、新幹線の車内販売って定価のイメージがない。綺麗なお姉さんがカートを押しながらやってくるあれ。
だから飲み物くらいは買うべきかな? お菓子とかもあった方がいいのかな。遠いみたいだし。
よく見れば周りにはコンビニ以外にも、おみやげ物屋さんとか駅弁屋さんがある辺り、本当にここは普通の電車の駅じゃないんだなぁって思う。雰囲気の違いはお店の違いも大きいっぽい。
そしてあっちこっちで大きな荷物を持った人がいるのは、家に帰るとか旅行なんだろう。
新幹線の改札内って、普段の駅と違う不思議な雰囲気がある。
「ちょっと見てみようかな」
「まぁ別に車内で買ってもいいよ。むしろ他の場所の有名なお菓子とかなら車内の方が売ってるし」
「常葉君、詳しいんだね」
改札でもそうだし、今もだけど、常葉君はこういう駅や新幹線にすごく慣れてるように見える。高校生で新幹線に慣れる機会って、普段あんまりないような気がするんだけど。
もしかして、鉄道オタク的な? そういうの好きなのかな?
うーん……常葉君が電車好きって、あんまりしっくりこないけど。意外性って感じ。
まぁ別にそうだとしても嫌じゃないし構わない。
「仕事でね。結構使ってるから」
「そうなんだ」
常葉君は何か仕事をしてるのはわかってるけど、そんなに遠くまでよく移動するような仕事なんだ。
どんな仕事なんだろう?
何度も思ったことがある疑問。
ここでさらっと聞いてみたかったけど、誰かの恋を使って何かするような関係なのだと思うと、なんとなく今日も気軽に尋ねる気にはなれなかった。常葉君もそれ以上何か言う気はないみたいで、コンビニの方に向かう私に着いて来る。
一人でも行けるよと言いかけた私は……自分の過去のあれこれを思い出して、はっとした。
「あのっ、常葉君!」
「ん?」
突然改めて立ち止まり常葉君を振り返った私に、常葉君が不思議そうな顔で立ち止まる。
「どこでも行くんだけど、一個だけ、気をつけてほしいっていうか……言っておかないといけないことが」
「うん」
こんなことを自分で言うのは恥ずかしいんだけど、今言っておかないと。
「私、その、ものすごく道を覚えるのが下手なので、しかも注意力が足りないらしいので、えっと」
過去何度、初めて行った場所で親や智花に迷惑をかけたことか。
すぐ何かに気を取られてふらっとはぐれる上に、周りをそこまで覚えてないから自分だけで合流もできなくて、智花なんかはそういう場所では私と腕をずっと組んでたりする。
つまり迷子になりやすい。
いい歳して情けないのだけど、いざ迷惑をかけてからじゃ遅いから。
「気をつけて、ください……」
ううう恥ずかしい。
どうにか最後まで言った私に、常葉君は一瞬目を丸くした後にくすくすと笑いながら頷いた。
折角だから知らないままできてほしいって言われれば断る理由もないから、私は素直に従う。
駅に着いてから、かなり歩いて新幹線の改札の前まで移動して、そこで初めて新幹線の切符を貰った。細長いそれを受け取って、改札を通る時に入れ方がよくわからなくてちょっとだけ手間取ってしまった。
だって新幹線なんてそんなに乗らないんだもの。
前どう乗ったのかなんて忘れちゃうくらいには乗らないもの。
そんな感じで中に入ったら、普通の電車の駅とは違う雰囲気で、あぁこれから新幹線に乗るんだって実感する。
「乗るやつが来るまでにまだちょっと時間あるけど、何か買う?」
「なにかって?」
「飲み物とか食べ物。着いてからも食べる場所あるからお腹いっぱいにする必要はないけど、結構乗ってる時間長いから。新幹線の中でも色々売ってるし無理にここで買うこともないんだけど……車内販売はちょっと高いんだよね」
駅のコンビニを指差しながら常葉君が言う。
確かに、新幹線の車内販売って定価のイメージがない。綺麗なお姉さんがカートを押しながらやってくるあれ。
だから飲み物くらいは買うべきかな? お菓子とかもあった方がいいのかな。遠いみたいだし。
よく見れば周りにはコンビニ以外にも、おみやげ物屋さんとか駅弁屋さんがある辺り、本当にここは普通の電車の駅じゃないんだなぁって思う。雰囲気の違いはお店の違いも大きいっぽい。
そしてあっちこっちで大きな荷物を持った人がいるのは、家に帰るとか旅行なんだろう。
新幹線の改札内って、普段の駅と違う不思議な雰囲気がある。
「ちょっと見てみようかな」
「まぁ別に車内で買ってもいいよ。むしろ他の場所の有名なお菓子とかなら車内の方が売ってるし」
「常葉君、詳しいんだね」
改札でもそうだし、今もだけど、常葉君はこういう駅や新幹線にすごく慣れてるように見える。高校生で新幹線に慣れる機会って、普段あんまりないような気がするんだけど。
もしかして、鉄道オタク的な? そういうの好きなのかな?
うーん……常葉君が電車好きって、あんまりしっくりこないけど。意外性って感じ。
まぁ別にそうだとしても嫌じゃないし構わない。
「仕事でね。結構使ってるから」
「そうなんだ」
常葉君は何か仕事をしてるのはわかってるけど、そんなに遠くまでよく移動するような仕事なんだ。
どんな仕事なんだろう?
何度も思ったことがある疑問。
ここでさらっと聞いてみたかったけど、誰かの恋を使って何かするような関係なのだと思うと、なんとなく今日も気軽に尋ねる気にはなれなかった。常葉君もそれ以上何か言う気はないみたいで、コンビニの方に向かう私に着いて来る。
一人でも行けるよと言いかけた私は……自分の過去のあれこれを思い出して、はっとした。
「あのっ、常葉君!」
「ん?」
突然改めて立ち止まり常葉君を振り返った私に、常葉君が不思議そうな顔で立ち止まる。
「どこでも行くんだけど、一個だけ、気をつけてほしいっていうか……言っておかないといけないことが」
「うん」
こんなことを自分で言うのは恥ずかしいんだけど、今言っておかないと。
「私、その、ものすごく道を覚えるのが下手なので、しかも注意力が足りないらしいので、えっと」
過去何度、初めて行った場所で親や智花に迷惑をかけたことか。
すぐ何かに気を取られてふらっとはぐれる上に、周りをそこまで覚えてないから自分だけで合流もできなくて、智花なんかはそういう場所では私と腕をずっと組んでたりする。
つまり迷子になりやすい。
いい歳して情けないのだけど、いざ迷惑をかけてからじゃ遅いから。
「気をつけて、ください……」
ううう恥ずかしい。
どうにか最後まで言った私に、常葉君は一瞬目を丸くした後にくすくすと笑いながら頷いた。