恋は見つかりにくい 2

文字数 1,247文字

 桜を一通り見終わって、駅まで帰りは歩いていく。
 お城の周りから離れていくほど道から人が減って歩きやすくなったけど、私の手は握られたままだった。結局手首を握られたあの後はずっと、同じ場所を常葉君に掴まれていた。たまに人の流れで離れそうになったら引き戻されて。

 途中にあったこじんまりしたカフェの前で、常葉君が立ち止まった。
「ご飯、ここでいい?」
「うん」
 中に入ると、同じように花見帰りのようなお客さんがちらほら座っていた。
 空いてる席に座って、やってきた店員さんにメニューをもらってすぐに注文を決める。メニューを返しながら、そういえば今は手が冷たいなぁと思った。
 さっきまでずっと握られてたからだろう。
 お店の中に入った後、自然に手は離されていた。

 だから、先に置かれたお水が、冷たすぎるくらいに感じる。
 ちょっと寂しいって思うくらい。
「改めて、弥生さんに伝えておかないといけない事がある」
 突然そう言われて、私は目の前に座っている常葉君を見た。
 視線を、テーブルの上にある自分の手元に置いたままの常葉君は、そのまま言葉を続ける。
「僕は……さっきの話の続きでもあるけど、弥生さんに嫌われたくない。それは弥生さんが実際にどうっていう問題じゃなくて、僕の方の気持ちの問題としてね」
 伝えられる言葉に。
 これから何か大事な事を言おうとしてるんだとわかったから、返事もせずにただ、続きの言葉を待った。
「最初の頃と、もう違うんだよ。僕にとっての弥生さんが」
 最初、っていうのはきっと私が告白した辺りなんだろう。
 あれからまだそんなに時間は経ってないように思えるし、すごく大きな何かがあった訳でもないと思う。前より話をしたりメッセージを送ったり、常葉君と関わる機会が増えただけで。
 私たちの関係性は、具体的には変化してない。
 だから私は、あまり何も変わってないように思ってたけど、そう思ってたのは私だけ、らしい。

 たしかにこうやって出かけたりとか、前なら考えられないけど。
 私にとっては非日常で特別なことだって、常葉君にとってはどうかなんて、私にはわからないから。

「嫌われたくないって思うようになったくらいには、特別になってる。それを恋と呼ぶのかは……情けないけど、断言できない癖にね」

 それは常葉君が、私のことを?
 ……あぁでも。
 それは、私の中にある好きと同じ意味かはわからないんだ。

 一瞬膨らんだ期待は、でもすぐに自分の中で否定になる。
 常葉君の言葉が、声が、酷く落ち着いてたからだろう。なんていうか、そういう話にありがちな熱を感じない、とても慎重に言葉を選んでる風だったから、すぐに私も冷静になった。

 常葉君のそれは、私の中にある恋としての好きとは、違うものかもしれない。例えば親友に向けるような。
 男女だからって、それがありえないなんてないから。

 きっと常葉君はそういう部分を心配だか迷ってるだか、気を遣って今喋ってるんだろう。常葉君の中で、まだその気持ちが何なのかはっきりしてないんだ、きっと。
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