恋と変化 2

文字数 1,292文字

 廊下で常葉君の名前が聞こえた気がして、私は窓の外を見るふりをして立ち止まった。
 どうやら他のクラスの女子の集団からだ。廊下の窓際に集まって、何やら盛り上がっているようだった。
 学年でも一番か二番に可愛いって言われてる子が中心の、特に派手なグループ。関わったことなんてないし話したこともないけれど、名前は知っている。行事とか何かある度によく目立つから、この学校の同じ学年の子なら大体彼女たちのことを知っていると思う。
 特に一番可愛いって言われてる子は、知らない人の方が少ないんじゃないかな。
「あきらめないもん!」
 その、可愛いって言われる幸田さんが言うのが聞こえる。
 見た目だけじゃない。明るい性格で人見知りとかなくて、友達の多い子らしい。
「そうだよ、ミカは可愛いから、まだチャンスあるよ!」
「クラス違うからアレなだけで、常葉君と関わり増えれば、向こうだってミカのこと気になるようになるかもだよ!」
 周りの友達がそう言っている。周りの子もほとんどが可愛い子だ。
 私は突然聞こえた常葉君の名前に、一瞬どきりと心臓が痛くなった。やっぱり常葉君に関しての話らしい。そうなるとなんとなく動けなくなって、私はそのまま窓の枠に手を置いて、外を見るふりをしながら話をもうちょっと聞いてみることにした。
「そうだよね! 少なくともこの学校の誰かにミカが負けると思えないし、もし誰もそういう人がいないなら、まだワンチャンあるよね!」
 幸田さんは声も可愛い。

 あれは、もしかしなくても、幸田さんが常葉君に振られたけど、それでもまだ諦めないって宣言してるのかな。

 そっか。
 恋を取られないってことは、振られた後も恋は残ってるからまだ頑張ってみようって思う可能性もあるんだ。私なんて振られたらもう無理だーって思うからすぐ諦めるのに。終わったと思って、好きを終わらせるのに。
 幸田さん、凄いなぁ。それだけ大事な、恋をしてるんだろうな。

 人それぞれに恋がある。知っていたけれど、実際にこうやって目の当たりにすると、変な話だけど改めて驚く。
「まずは帰り誘ってみようかな!? あと、休み時間も話しに行く! あ、お弁当とか」
 可愛らしい幸田さんの声は、廊下によく響いた。友達の子たちも一緒にあれこれと提案し始める。
 そのまま幸田さんのグループは「常葉君攻略作戦」で盛り上がり出した。廊下だから歩いてる人たちはいっぱいいるけど、会話でなんとなく内容を察してはそれぞれ表情を変えるだけで通り過ぎてる。周りなんて見てない幸田さんたちは、でも楽しそうに見えた。

 恋してるってすごい。
 なんというか、パワーに圧されるって感じ。
 すごいなぁ、って。

 なんとなく、圧倒されてしまう。

 ずっと聞いていた私もそんな感じでいたら、スマホが震えた。
 ハッと取り出して見たら表示は常葉君で、気になって周りを見回したら、ちょっと遠いところで背中を向けて離れていこうとしているのが見えた。
 あの位置なら幸田さんたちの話は聞こえてたんじゃないかな……なんだろう、と画面を見たら。
「ノーチャンだって今すぐ言いたい」
 常葉君らしい、と私は笑ってしまった。
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