恋の抵抗 2

文字数 873文字

 とにかく。
 私は、ちゃんと振られるなら(嫌だけど)我慢できる。
 でもあんな風に勝手に消されるのは絶対に嫌。だから消されるならこっちだって、ちゃんと振ってもらえるまで恋をするだけ。消される時点で振られてるようなものだとは思うけど、それでも私自身の気持ちの問題だ。
 身勝手なのはわかってる。
 でもそれなら常葉君のやってることだって勝手なんだし、おあいこでしょ。
「振るなってわけじゃないの。ちゃんと、振ってほしいだけ。あんな風に消されたくないの」
 そう伝えると、彼は不思議そうな顔をする。
「振られるってわかってるなら結局一緒じゃない?」
「違うよっ!」
 やっぱり常葉君はわかってない!
「この気持ちが大事なの。ちゃんと終わりにしてほしいの」
「なかったことになる方が楽じゃない?」
 好きな人に振られれば悲しい。それだけなら確かに、最初からなかったことになって振られることもなければ、悲しくはないと思う。
 でもそうじゃないんだよ。
「それは確かに楽かもしれないよ。でも違うの。楽になりたいんじゃない」
 私がそう言うと、ますます常葉君は不思議そうな顔になる。
 楽に生きたい。
 みんなそういう部分はあると思う。
 それは間違ってない。普通なことだと思う。
 でもじゃあ、楽だからって何もさせないなんていうのは、絶対に違う。私はそれを知っている。
「苦労したいの? 辛い目にあいたいの? Mなの?」
「違うよ、そうじゃなくて」
 あぁなんて言えば伝わるんだろう。
 この口ぶり、表情からして、彼はあれを、ほんの少しは相手のためも思ってやってたらしいから。
 振られるのはいいけど、楽になりたいんじゃない、あんなことそもそもされたくないんだっていう私の言葉が理解できないらしい。
 確かに私以外の誰かなら常葉君の意見に納得するかもしれないけど。
 でも私は。
「話すと、ちょっと長くなるんだけど」
「いいよ、まだ時間はあるし」
 ちらっと教室の黒板の上の時計に目をやって、常葉君は頷く。
 うまく伝わるかどうかわからない。
 でも私は、言葉を選びながら、昔を思い出しながら、ゆっくりと話しだした。
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