第8話
文字数 1,690文字
山賊たちとはだいぶ距離があるので、雑談をしている風にしか見えないだろう。クレメンスにしろヴィーラントにしろ、無詠唱で魔法を発動できるほどに高レベルの聖騎士 と魔法使いだが、敵の目を誤魔化すために芝居を打っている。
他の者たちはいつでも暴れられるよう、得意の武器にさりげなく手を伸ばす。不意にクレメンスが右手を挙げた。それが合図だったようで、クリストフは短剣 を両手に持ち、魔法使いと弓手の咽喉を正確に描き切る。鮮血が飛び散り、生暖かい液体を前衛職の連中が感じた瞬間にはもう、クリストフの姿は民家の陰に消えている。
「な、なんだこれは? おい、みんな」
頭目が慌てふためいた声を上げるころには、僧侶の声は封じられていた。クリストフのダガーが縦横無尽に閃き、暗殺者ほどではないが、それなりに素早い格闘家の足と腕の腱を斬って無力化する。そこでようやく敵がクリストフに気づき、彼を排除しようと動き出すが、今度は無詠唱で発動したヴィーラントの土属性魔法が炸裂する。地面が槍のように鋭く隆起し、五人ばかりが一度に串刺しにされた。
「行くぞ」
クレメンスが張った結界はそのままに、各々が得意武器を手に集団で、残り七人に減った脳筋たちに襲いかかる。敵も昔は名の知れた冒険者パーティーだ。一時の混乱から立ち直ると、前衛職しかいないが猛然と、しかし冷静にクレメンスたちと対峙する。
クレメンスもマクシミリアンも馬から降りた。この場合、馬を狙われると馬が狂奔し、落馬する危険性が高い。それよりは、最初から馬を捨てて戦ったほうが安全だ。商人らしく護身用のレイピアを引き抜いたクレメンスは、やけに軽装の男に突きこもうとして、慌てて後ろへ飛びのいた。次の瞬間、つい今しがたまでクレメンスがいた地面に火球が燃えていた。
(この男、魔法戦士か?)
胸当てとバックラーという軽装から、もっと早く気付くべきだった。前衛にも中衛にもなれる、戦士と魔法使い、両方の特性を併せ持つ珍しいクラス。だが悲しいかな近接戦においては戦士に及ばず、魔法も初級魔法しか使えないという何とも半端なクラス。しかし、隠し玉としては効果的ではある。現に聖騎士であるクレメンスが、一瞬だが虚を突かれた。
(動きはさほどに早くない。ならば)
クレメンスは素早い突きを繰り出す。バックラーで防御しようと構えるも、二人の間の実力差は歴然としている。顔を狙われたかと思いきや脚を刺され、魔法戦士はクレメンスの動きに翻弄されている。なまじ軽装であるがゆえに、魔法戦士の全身にやがて穴が開いていく。最後は咽喉を突かれ、絶命した。
(なんだこいつら。ただ者じゃねぇぞ)
山賊の頭目である戦士は、マクシミリアンを相手に苦戦している。相手は標準的な長剣を装備していて、自分は戦斧。まともに戦えば長剣など折れるのに、相手は難なく戦斧の重い一撃を受け流し、左手の短剣で目を突こうとしてくる。
戦斧は特注品であるため、通常のものより重く刃は分厚い。それなのに武器のハンデをものともせずに、黒髪の若者は無表情に挑んでくる。それが山賊の頭目にとっては、不気味だった。いかに優れた冒険者であっても、武器を振り下ろした瞬間には若干の隙が生まれる。そこを見逃さないように、目つぶしを仕掛けられるのだから、たまったものではない。
「く、くそ。退却だ!」
「逃がすわけないでしょう。これ以上、被害者を出さないためにも、全員死んでもらいます」
抑揚のないマクシミリアンの声音に、背筋が凍り付く思いがした。ダンジョンでミノタウロスたちに囲まれた時よりも、死を間近に感じた。
(こいつら、何者だ?)
恐怖のために動きが鈍る。顔面を襲う攻撃を防ぐか、受け流すか迷った刹那、戦斧を握っていた右手首に激痛が走った。ごとりと重い音を立てて、獲物と共に己の右手首が地面に転がった。己の絶叫は、手下どもの断末魔の悲鳴にかき消されていく。気づけば手下どもはすべて地面に倒れ伏しており、痙攣をしているか動かないかのどちらか。
「己の所業を悔やみながら、旅立ちなさい」
眼前には長剣。頭目の意識は、そこで永遠に刈り取られた。
他の者たちはいつでも暴れられるよう、得意の武器にさりげなく手を伸ばす。不意にクレメンスが右手を挙げた。それが合図だったようで、クリストフは
「な、なんだこれは? おい、みんな」
頭目が慌てふためいた声を上げるころには、僧侶の声は封じられていた。クリストフのダガーが縦横無尽に閃き、暗殺者ほどではないが、それなりに素早い格闘家の足と腕の腱を斬って無力化する。そこでようやく敵がクリストフに気づき、彼を排除しようと動き出すが、今度は無詠唱で発動したヴィーラントの土属性魔法が炸裂する。地面が槍のように鋭く隆起し、五人ばかりが一度に串刺しにされた。
「行くぞ」
クレメンスが張った結界はそのままに、各々が得意武器を手に集団で、残り七人に減った脳筋たちに襲いかかる。敵も昔は名の知れた冒険者パーティーだ。一時の混乱から立ち直ると、前衛職しかいないが猛然と、しかし冷静にクレメンスたちと対峙する。
クレメンスもマクシミリアンも馬から降りた。この場合、馬を狙われると馬が狂奔し、落馬する危険性が高い。それよりは、最初から馬を捨てて戦ったほうが安全だ。商人らしく護身用のレイピアを引き抜いたクレメンスは、やけに軽装の男に突きこもうとして、慌てて後ろへ飛びのいた。次の瞬間、つい今しがたまでクレメンスがいた地面に火球が燃えていた。
(この男、魔法戦士か?)
胸当てとバックラーという軽装から、もっと早く気付くべきだった。前衛にも中衛にもなれる、戦士と魔法使い、両方の特性を併せ持つ珍しいクラス。だが悲しいかな近接戦においては戦士に及ばず、魔法も初級魔法しか使えないという何とも半端なクラス。しかし、隠し玉としては効果的ではある。現に聖騎士であるクレメンスが、一瞬だが虚を突かれた。
(動きはさほどに早くない。ならば)
クレメンスは素早い突きを繰り出す。バックラーで防御しようと構えるも、二人の間の実力差は歴然としている。顔を狙われたかと思いきや脚を刺され、魔法戦士はクレメンスの動きに翻弄されている。なまじ軽装であるがゆえに、魔法戦士の全身にやがて穴が開いていく。最後は咽喉を突かれ、絶命した。
(なんだこいつら。ただ者じゃねぇぞ)
山賊の頭目である戦士は、マクシミリアンを相手に苦戦している。相手は標準的な長剣を装備していて、自分は戦斧。まともに戦えば長剣など折れるのに、相手は難なく戦斧の重い一撃を受け流し、左手の短剣で目を突こうとしてくる。
戦斧は特注品であるため、通常のものより重く刃は分厚い。それなのに武器のハンデをものともせずに、黒髪の若者は無表情に挑んでくる。それが山賊の頭目にとっては、不気味だった。いかに優れた冒険者であっても、武器を振り下ろした瞬間には若干の隙が生まれる。そこを見逃さないように、目つぶしを仕掛けられるのだから、たまったものではない。
「く、くそ。退却だ!」
「逃がすわけないでしょう。これ以上、被害者を出さないためにも、全員死んでもらいます」
抑揚のないマクシミリアンの声音に、背筋が凍り付く思いがした。ダンジョンでミノタウロスたちに囲まれた時よりも、死を間近に感じた。
(こいつら、何者だ?)
恐怖のために動きが鈍る。顔面を襲う攻撃を防ぐか、受け流すか迷った刹那、戦斧を握っていた右手首に激痛が走った。ごとりと重い音を立てて、獲物と共に己の右手首が地面に転がった。己の絶叫は、手下どもの断末魔の悲鳴にかき消されていく。気づけば手下どもはすべて地面に倒れ伏しており、痙攣をしているか動かないかのどちらか。
「己の所業を悔やみながら、旅立ちなさい」
眼前には長剣。頭目の意識は、そこで永遠に刈り取られた。