第7話

文字数 1,424文字

 国境を帝国側から無事に超え、プラテリーア公国に入る。旅商人はその性格上、出入国における身元確認は、一般人のそれよりも緩い。だからこそ、秘密任務を帯びた間者は旅商人を装うことが多い。クレメンスとマクシミリアンが商人に化け、騎士たちは護衛に雇われた冒険者、といった扮装をしている。

 現在は人間界と呼ばれデウス神の庇護下にある物質界だが、遥か太古に妖魔王と共同統治されていた影響で、下級妖魔とばれる魔物(モンスター)たちもまだ、かなりの数が残っている。しかしそれらよりも旅商隊を悩ませるのが、山賊だ。冒険者くずれが多く、なまじ腕に覚えがある連中だけに、どの旅商隊も必ず護衛の冒険者たちを雇う。雇っていない旅商隊は、絶好のカモになる。

「へへっ、護衛は五人。こっちは十五人。ぼろい仕事だぜ」

 国境付近の小さな町カヴィーリャを根城にする山賊の頭は、街道をやってくる旅商隊の正体を知らずに、舌なめずりせんばかりに下卑た笑いを浮かべた。荷物は全て分捕り、商人も護衛も皆殺しにするのが彼らのやり方だ。

 かつては、ピャヌーラ王国随一の冒険者ギルド・アークイラに所属し、様々なダンジョンや遺跡を攻略してきた彼らだが、加齢とともに山賊へと堕ちてしまった。

 ピャヌーラ王国から王位継承のどさくさで独立し、プラテリーア公国を興した先代大公の軍団に紛れ、ちゃっかりとカヴィーリャの町を自分たちの根城にしてしまった。

 駐在武官を手なずけ、町は山賊どもの支配下にある。心ある者が都に具申しようとしても、ことごとく斬られて町の住人たちは怯え切った毎日を送っている。

「いいか野郎ども。久々のカモだ、ぬかるんじゃねぇぞ」

 リーダーは元戦士。その他にも魔法使いに僧侶、弓手(アーチャー)など前衛職と後衛職のバランスが良い。全員が五十歳過ぎで、魔物相手の経験も豊富だ。だが魔物を相手にするよりも、数にものを言わせて旅商隊を襲ったほうが、はるかに楽で儲けが大きいと判ってからは、堕ちる一方だった。

「陛下。索敵(サーチ)呪文(スペル)に複数の人間が引っ掛かりました。戦士、魔法使い、僧侶、弓手、格闘家など計十五人ですね。どうやら冒険者くずれの山賊です」
「いきなり市街戦か。一般人たちの様子はどうだ?」
「この山賊たちを恐れてか、昼間だというのに家に閉じこもっているようです」
「我が国西部の国境付近は治安が悪いと聞いてはいた。なるほど山賊どもがいるなら、それも頷ける。わたしがまず絶対防御盾(シールド)を張る。魔法使いと僧侶、弓手をまずは潰す。脳筋クラスは、後でも構わん」
「御意」

 ヴァイスハイト帝国の緋色旗(ひしょくき)近衛騎士団は、帝国軍の中でも精鋭中の精鋭が結集するエリート集団。その中でも団長であるマクシミリアンが選抜した五人は、兵士からの叩き上げや、冒険者ギルドからスカウトされた者など、様々な前歴を持っている。

 騎士団と形式上は銘打ってあるが、実際には傭兵団と称しても良いほど職業(クラス)はバラバラである。この護衛たちの中には、魔法使いや暗殺者もいる。

「クリストフは背後から魔法使いと弓手を。ヴィーラントは、わたしがシールドを張る直前に僧侶に沈黙(サイレント)の呪文を。混乱したところを叩くぞ」
「お任せを」
「御意」

 命令を受けた暗殺者のクリストフは、そのスキルを活かし、いとも簡単に建物の陰に隠れ移動する。素早さは盗賊(シーフ)やトレジャーハンターの上位互換クラスなので、脳筋主体の山賊たちの視界に入ることはない。続いて魔法使いのヴィーラントとクレメンスが、同時に小声で呪文の詠唱を始めた。
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