第76話
文字数 1,037文字
クレメンスの動きは早かった。翌朝、ごく近しい側近たちのみを集めると声高に言い放った。
「貴族たちの内偵を極秘裏に進めよ。またこの機会に、保身で仲間を売る真似をする者も出てくるだろう。構わぬから全員逮捕し、尋問せよ」
密命が飛び、皇帝直属の諜報を得意とする人間たちが動き出した。ハインリヒを筆頭とする反乱分子の大半を逮捕したとはいえ、未だにイザベラに対する護衛は厳重を極めている。証拠があれば身分を剥奪された上の、国外追放処分。特権階級者がすべての特権を失い、見知らぬ土地へ一族郎党もろともに追放される。これほど恐ろしい刑罰はないだろう。
新たに帝国領となった旧プラテリーア公国内への立ち入りは当然禁じられ、同じ大陸内にある封印を守護するテレノ帝国への亡命も禁じられた。途方に暮れた彼らは、泣く泣く未開の地である北方の島へと逃れていくしかない。
ハインリヒに与する者たちはこのように重い処分を目の当たりにし、震えあがった。新皇帝の后に一族の娘をと考えていた者たちは考えを改め、皇帝に二心がないことを証明せねばならなくなった。それでも婚儀が終わるまでは安心できないので、イザベラの国葬と戴冠式への出席は見送る決定を下した。その代わりロベルトはプラテリーア公爵として、帝国内での地位を確約されることとなる。
ロベルトやオスティ将軍らが療養している大聖堂だが、本日二人は国葬会場である大聖堂から極秘裏に宮殿へと移動し、匿われている。
国葬は戴冠前のクレメンスが、皇太子として式次第をすべて執り行う。殯 を終えた先帝ゲオルグの遺体は、少しずつ腐敗している。喪服に身を包んだクレメンスは、父帝の棺に近づき最後の別れをすませる。
(父上。未熟者のわたしですが、必ずやこの国を立派に統治します。どうか見守ってください)
大神官が祭具を手に進み出、ゲオルグの遺体に向けて死者の魂を慰める祝詞を唱える。次いで煮出した香油をゆっくりとその遺体にかけまわすと、棺のふたが閉じられた。
皇帝の棺を担ぐことが許された、特別な神職に就く者たちが棺を運び出し、帝室専用の墓場へと埋葬する。国葬を終えたクレメンスは沐浴をして身を浄め、隣接する大神殿へと移動する。
戴冠式の会場である大神殿は、物々しい警備兵と華やかに着飾った招待客たちの姿が、対照的にひしめいている。
国家の守護神である、アシオー女神の大神殿は建国当初に建立されたものだが、毎年補修工事を行っているため、いつまでも荘厳で美しい姿を保っていた。
「貴族たちの内偵を極秘裏に進めよ。またこの機会に、保身で仲間を売る真似をする者も出てくるだろう。構わぬから全員逮捕し、尋問せよ」
密命が飛び、皇帝直属の諜報を得意とする人間たちが動き出した。ハインリヒを筆頭とする反乱分子の大半を逮捕したとはいえ、未だにイザベラに対する護衛は厳重を極めている。証拠があれば身分を剥奪された上の、国外追放処分。特権階級者がすべての特権を失い、見知らぬ土地へ一族郎党もろともに追放される。これほど恐ろしい刑罰はないだろう。
新たに帝国領となった旧プラテリーア公国内への立ち入りは当然禁じられ、同じ大陸内にある封印を守護するテレノ帝国への亡命も禁じられた。途方に暮れた彼らは、泣く泣く未開の地である北方の島へと逃れていくしかない。
ハインリヒに与する者たちはこのように重い処分を目の当たりにし、震えあがった。新皇帝の后に一族の娘をと考えていた者たちは考えを改め、皇帝に二心がないことを証明せねばならなくなった。それでも婚儀が終わるまでは安心できないので、イザベラの国葬と戴冠式への出席は見送る決定を下した。その代わりロベルトはプラテリーア公爵として、帝国内での地位を確約されることとなる。
ロベルトやオスティ将軍らが療養している大聖堂だが、本日二人は国葬会場である大聖堂から極秘裏に宮殿へと移動し、匿われている。
国葬は戴冠前のクレメンスが、皇太子として式次第をすべて執り行う。
(父上。未熟者のわたしですが、必ずやこの国を立派に統治します。どうか見守ってください)
大神官が祭具を手に進み出、ゲオルグの遺体に向けて死者の魂を慰める祝詞を唱える。次いで煮出した香油をゆっくりとその遺体にかけまわすと、棺のふたが閉じられた。
皇帝の棺を担ぐことが許された、特別な神職に就く者たちが棺を運び出し、帝室専用の墓場へと埋葬する。国葬を終えたクレメンスは沐浴をして身を浄め、隣接する大神殿へと移動する。
戴冠式の会場である大神殿は、物々しい警備兵と華やかに着飾った招待客たちの姿が、対照的にひしめいている。
国家の守護神である、アシオー女神の大神殿は建国当初に建立されたものだが、毎年補修工事を行っているため、いつまでも荘厳で美しい姿を保っていた。