第15話

文字数 1,029文字

 オリンド大公、公国唯一の宮廷魔術師であるメリッサ、大神官ヴィットリオ、近衛騎士団長エミリオの四人が、人目をはばかるかのように広間に集結していた。

 人数のわりには広すぎる部屋だが、ここは宮殿内でも奥まった場所にあり大公の私室にも近いことから、密談をするには相応しい。近時の者たちをすべて遠ざけ、四人はこの人間界ではタブーとされていることについて話し合い始めた。

「先ほど入手した情報によると、ヴァイスハイト帝国のゲオルグ皇帝が崩御したそうだ」
「ほう。では大公殿下、いよいよ?」
「うむ。イザベラに跡目を継がせるためにも、少しばかり領土拡大をせねばな。今ならば、たとえ帝国といえど動揺が広がっておろう。国境の一部を奪うチャンスである」

 軍事的な事はやはり、近衛騎士団長エミリオが率先して発言する。対してメリッサや大神官ヴィットリオといった後衛職の二人は、神聖不可侵とされる帝国に攻め込むことに、口には出さずとも難色を顔に刷いた。特に大神官ヴィットリオは帝国の守護神である戦女神アシオ―に仕える身のため、胸中は複雑だ。メリッサは、ひと言も発しない。

「ですが公女殿下の出陣は、今回は避けねばなりますまい。大事な御身、怪我でもされては一大事」
「うむ、エミリオの言う通りだな。此度の出陣は私が自ら指揮を執る。ロベルトも初陣として出兵させ、戦死させれば一石二鳥だな」

 公子と公女の武術における教育係である、オスティ将軍がこの場にいなくてよかったと大神官は内心で息をついた。メリッサは相変わらず無表情であるが、大公の言葉をひと言も聞き漏らすまいと、真剣な表情を崩さない。

「エミリオ、近衛騎士団に出陣できるよう触れを出しておけ。直属の精鋭部隊だけで、一気呵成に攻め立てるからな」
「ははっ」
「ヴィットリオとメリッサも、帯同してもらうぞ。そなたたちがいれば、後衛は安心して任せられる」

 呵呵大笑するオリンド大公に対し、大神官ヴィットリオは複雑な笑みを、宮廷魔術師メリッサは冷笑を返す。

「決起は一ヶ月後の早朝とする。準備を急げ」
「御意」

 帝国に攻め込む。この馬鹿げた戦に乗り気なのは、大公と近衛騎士団長だけだと、大神官と女宮廷魔術師の思惑は一致した。

 会議が終わった直後、姿隠し(インビジブル)の呪文をかけられた魔法創造生物、有翼猫(ウイング・キャット)が皇帝クレメンスの許へと飛び立った。クレメンス新皇帝にこの情報が届くまで、そう時間はかからないだろう。帝国の潜入スパイである“草”は、何食わぬ顔で、公国内を歩き回る。
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