第17話

文字数 1,233文字

 飛びだしたバルドは、人狼たちの数に歯噛みする。少なく見積もっても、十五、六体。結界を張ってあるとはいえ、彼らの攻撃力は侮れない。間の悪いことに今宵は満月で、彼らの魔力が最大限に発揮される。

「僕も戦う」
「殿下、危のうございます。どうか幌の中に」
「剣を振るう能力があるのに、指をくわえて見ていろと? 僕は姉上と再会したいんだ。こんなところで、死ぬわけにはいかない」

 両手でも片手でも扱えるバスタードソードを引き抜き、ロベルトは馬車の後ろに回り込む。ミーナも出てきて、松明に火をつける。総力戦の態を示す人間に対し、人狼たちは結界に攻撃を阻まれ、口惜しそうに咆哮を上げる。

(ここで死ねない。こんなところで死んだら、あの男が高笑いする)

 バスタードソードを構えなおし、ロベルトは呼吸を整える。幼き頃にオスティ将軍から教わった、剣術の基礎を思いだす。

(相手から目をそらすな、呼吸を読め。考えるな、感じるんだ)

 ロベルトの五感が研ぎ澄まされていく。周囲の緊張感とは裏腹に、冷静さに包まれていく。結界の外からの攻撃は阻まれるが、内側からの攻撃は可能。斬るより突くことに重点を置いたほうがよさそうだ。

「殿下、これを」

 バルドが炎の呪文を封じた呪符を寄こした。見れば彼の剣は炎に包まれている。

(なるほど、付加魔法(エンチャント・マジック)か)

 人狼(ワーウルフ)人虎(ワータイガー)、また吸血鬼などには普通の武器では傷ひとつ付けられない。銀製か聖職者が浄めた武器、または武器や防具に魔法を付加することで、そういったモンスターを殺傷できる。バスタードソードの刀身に呪符を張り付け、キーワードを口にする。瞬時に呪符は消え、代わりに炎に包まれた刀身が現れた。

「ミーナは松明を消さないように。うまくすれば騒ぎを聞きつけて、エルフたちが来るかもしれない」

 ロベルトの指示に、ミーナは頷く。確かにここは、先代大公と協力関係を結んだエルフが住む、憩いの森。松明を投げて攻撃することもできるが、それでは森を焼くことになり、エルフの協力を得られなくなってしまう。

 人狼たちの咆哮が続く。仲間を呼んでいるのか、苛立ちを表しているのか判らないが、体当たりをしたり噛みついたりと結界が揺れる。二頭の馬がいななき、ミーナがなだめに回る。

 結界そばの一体の心臓に、バスタードソードを突き立て、素早く引き抜くロベルト。バルドはひと振りで人狼二体の首を斬り落とす。さすがにイザベラ直属の兵士だけあって、戦闘能力は高い。フィオリーノも大口を開けた一体に、雷をまとった長剣を突きこみ、脳を焼き尽くす。

 いきり立った人狼たちは跳躍すると結界の上に乗り、地団太を踏むようにして壊そうと試みる。そうはさせじと御者台に飛び乗ったフィオリーノが、氷属性をまとわせた投げナイフを下から投げ、咽喉へと命中させる。

 ミーナも武術が苦手とはいえ、まったく戦えないわけではない。だが彼女の力量では足手まといになるだけだ。結界越しに松明の炎を突き付け、人狼の鼻面を焦がしたりと地味な攻撃を続ける。
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