第14話

文字数 873文字

 会議の会場となる広間へ歩を進めながら、オリンド大公は心に湧き上がる嗜虐心をこらえる。狂おしいほどの欲情と独占欲を、アンジェラを見るたびに覚えてしまう。

 もう四十年も昔に、宮殿に上がったアンジェラを見て心を奪われてしまって以来、他の女など慰みの対象でしかならなくなった。父親の側妾であることは、重々承知していた。だから父親が死ぬまで待った。

 傍から見れば横恋慕だの、不義と映り責められるのは、すべて覚悟の上だ。当の本人、アンジェラが生涯心を奪われているのが先代大公であっても、己が想いを抑えることは不可能だった。

 彼女を思い切り蹂躙し征服することで、ずっと飢えていた心の空白は一時的にだが埋められた。しかし彼女との同衾は砂漠で求める水と同じで、どれほど欲してもキリがなかった。

 求めれば求めるほど拒まれ、それがまた欲する心となって追い掛け回す。彼女に心底憎まれていることは百も承知だが、憎まれることによって彼女の心に己の存在が、永遠に刻まれるならば本望。歪んだ愛情はもはや、修正不可能だった。

 愛する女性が産んだ子が、イザベラ。女児だったが、そんなことは関係がない。女児だろうが何だろうが、己が全身全霊をかけて愛した、たったひとりの女性が産んだ子を、何としても跡取りに据えたかった。

 法を改正し、嫡男を廃そうと、母娘(おやこ)二代にわたって蛇蝎のごとく嫌われようとも、必ずイザベラを次期大公に据え、アンジェラを正式に妃にすることが人生の最終目標である。

 歪んでいる、と指摘されずとも自覚している。ただひとりの女に、生涯狂ってしまったのだ。ミルドレッド妃が嫌いだったわけではない。それなりに愛情を持っていたが、アンジェラのように魂が欲するほどではなかった。陽だまりのような、心安らげる女ではあったが。

 亡くなった二人目の妃の顔を脳裏によみがえらせながら、オリンドは無意識に息を吐いた。嫡男のロベルトは、顔立ちは母親そっくりだ。それでいて腹違いの姉イザベラとも、似ている部分がある。血のつながりとは判らぬものよと胸の内で呟くと、大公は広間へと足を踏み入れた。
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