第32話
文字数 1,385文字
ダークエルフたちは城下町に対して、西側に陣を取っている。イザベラたちは東側に陣形を展開しつつ、防御に徹している。
唐突に、西風がやんだ。きた、とイザベラは全軍に指令を出す。
「東風が吹くと同時に、護符 を投げつけながら総攻撃を開始せよ!」
イザベラの命令を待っていたかのように、東風が吹き始めた。彼女たちにとっては、追い風になる。全軍が一斉に護符を投げつけながら、各々の武器を手に突進を開始した。風に乗って護符が、ダークエルフに向かって舞う。
「沈黙!」
キーワードが発動し、護符が光を放つ。瞬間、ダークエルフたちは呪文はおろか通常の会話すらも封じ込められた。何が起こったのか判らず、パニックに陥るダークエルフたちに、一気呵成に攻め立てる。事態に気づいたダークエルフたちが、慌てて弓に矢をつがえるが、遅かった。ならばとレイピアを引き抜いて応戦するも、人間たちの戦斧や棍棒といった重量のある武器にへし折られていく。
イザベラもバスタードソードを巧みに操り、敵の将を探す。一人だけ革だが全身を覆った鎧をまとったものを見つけると駆け寄り、一刀のもとに斬り捨てた。
「敵将を打ち取ったぞ!」
オスティ将軍が勝鬨 の声を上げた。これに励まされた人間たちは、今まで耐えていた分のうっ憤を晴らすかのように攻め立てる。
「勝負はついた、退却するか」
「そうですな。うん? 殿下、何やら伝令が」
後方から伝令兵が、息を切らせながらやってきた。
「申し上げます、後方よりヴァイスハイト帝国の軍勢が攻めてきます」
「何、帝国だと?」
隣にいたオスティ将軍が思わず声をあげた。
「馬鹿な、なぜ帝国が我が国に。いや、今はそんな場合ではない。イザベラ様、ダークエルフと帝国軍を相手にしては、全滅は明らかですぞ」
「判っている。口惜しいが大至急退却だ。総員、退却!」
次々と退却命令が前線の兵士たちに伝わる。息を吹き返したダークエルフたちが、ここぞとばかりに追撃を開始する。
「イザベラ様、お急ぎを」
「うむ」
軍勢をまとめながら彼女は、なぜいきなり帝国軍が攻めてきたのか解せなかった。
(こんな都のすぐ傍にまで兵を出してくるということは、まさか共謀していたのか?)
「急ぎ城まで戻るぞ!」
精鋭ともいえるイザベラが宮殿を留守にしている今、帝国軍に攻め込まれたらひとたまりも無いはずだ。あくまでもあの男の首級 を挙げるのは自分の役目だ、帝国に取られてたまるかという思いで何とか逃げようと試みる。しかし帝国軍の動きは想像以上に素早く、じりじりと包囲されていく。
「突破口を開くぞ。敵の数が少ないところを、一点集中で攻め抜けるんだ!」
イザベラとオスティ将軍の激が飛び、敵と自軍の剣が交錯する。剣戟と怒号、馬のいななきなどが戦場を埋め尽くす。おびただしい血が流され、身体の一部が地面に落とされていく。イザベラの軍はダークエルフとの戦闘で数を減らしている。帝国軍はざっと見積もって、千人はいるとみてよい。
(いつの間に現れた? ダークエルフたちと同じように、転移の魔方陣か? それにしても、これだけの人数を一度に転移できるとは)
魔法後進国の自国では想像もつかないほどの魔力を持った魔法使いが複数人、この移動にかかわったのだろう。しかも帝国内で。この軍勢の中にも、何人か魔法使いはいるだろう。イザベラは一瞬だけ背筋に冷たい汗をかいた。
唐突に、西風がやんだ。きた、とイザベラは全軍に指令を出す。
「東風が吹くと同時に、
イザベラの命令を待っていたかのように、東風が吹き始めた。彼女たちにとっては、追い風になる。全軍が一斉に護符を投げつけながら、各々の武器を手に突進を開始した。風に乗って護符が、ダークエルフに向かって舞う。
「沈黙!」
キーワードが発動し、護符が光を放つ。瞬間、ダークエルフたちは呪文はおろか通常の会話すらも封じ込められた。何が起こったのか判らず、パニックに陥るダークエルフたちに、一気呵成に攻め立てる。事態に気づいたダークエルフたちが、慌てて弓に矢をつがえるが、遅かった。ならばとレイピアを引き抜いて応戦するも、人間たちの戦斧や棍棒といった重量のある武器にへし折られていく。
イザベラもバスタードソードを巧みに操り、敵の将を探す。一人だけ革だが全身を覆った鎧をまとったものを見つけると駆け寄り、一刀のもとに斬り捨てた。
「敵将を打ち取ったぞ!」
オスティ将軍が
「勝負はついた、退却するか」
「そうですな。うん? 殿下、何やら伝令が」
後方から伝令兵が、息を切らせながらやってきた。
「申し上げます、後方よりヴァイスハイト帝国の軍勢が攻めてきます」
「何、帝国だと?」
隣にいたオスティ将軍が思わず声をあげた。
「馬鹿な、なぜ帝国が我が国に。いや、今はそんな場合ではない。イザベラ様、ダークエルフと帝国軍を相手にしては、全滅は明らかですぞ」
「判っている。口惜しいが大至急退却だ。総員、退却!」
次々と退却命令が前線の兵士たちに伝わる。息を吹き返したダークエルフたちが、ここぞとばかりに追撃を開始する。
「イザベラ様、お急ぎを」
「うむ」
軍勢をまとめながら彼女は、なぜいきなり帝国軍が攻めてきたのか解せなかった。
(こんな都のすぐ傍にまで兵を出してくるということは、まさか共謀していたのか?)
「急ぎ城まで戻るぞ!」
精鋭ともいえるイザベラが宮殿を留守にしている今、帝国軍に攻め込まれたらひとたまりも無いはずだ。あくまでもあの男の
「突破口を開くぞ。敵の数が少ないところを、一点集中で攻め抜けるんだ!」
イザベラとオスティ将軍の激が飛び、敵と自軍の剣が交錯する。剣戟と怒号、馬のいななきなどが戦場を埋め尽くす。おびただしい血が流され、身体の一部が地面に落とされていく。イザベラの軍はダークエルフとの戦闘で数を減らしている。帝国軍はざっと見積もって、千人はいるとみてよい。
(いつの間に現れた? ダークエルフたちと同じように、転移の魔方陣か? それにしても、これだけの人数を一度に転移できるとは)
魔法後進国の自国では想像もつかないほどの魔力を持った魔法使いが複数人、この移動にかかわったのだろう。しかも帝国内で。この軍勢の中にも、何人か魔法使いはいるだろう。イザベラは一瞬だけ背筋に冷たい汗をかいた。